2005年 アメリカ 164分
監督:スティーブン・スピルバーグ
出演:エリック・バナ、 ダニエル・クレイグ、 マチュー・アマルリック
テロへの報復暗殺。 ★★★☆
1972年のミュンヘン・オリンピック時に、イスラエルの選手11人がパレスチナ・ゲリラに殺害されるという事件が起きた。その報復のために、イスラエルのモサドは5人の暗殺者チームを結成し、殺害された選手と同じ人数のパレスチナ・ゲリラの幹部を殺害しようとする。
実際の暗殺者の手記を原作として、事実に基づいて作られたとのこと。だから暗殺にいたる過程の細部にまでリアリティがある。
たとえば、主人公たちは標的の情報を得るために裏組織との関係を持つのだが、その裏組織はお金で動くわけだから、当然のことながら敵とも関係を持っているかも知れないのだ。
そんな非情な状況がシリアスに描かれている。
この作品の底には、イスラエルとパレスチナという、宗教的、民族的な争いがある。
そのため、ほとんど無宗教、単一民族の環境で生きてきた私のような者には、スピルバーグが込めた作品の狙いを充分に受けとめることが困難であるだろう。
彼らには祖国を求める気持ち、祖国がそこに”在る”ということへの願いのようなものが、とても強くある。
祖国はそこにあって当たり前として安穏として生きてきた私には、その切羽詰まった思いを、観念としては理解するのだが、充分にはくみ取れていないだろうと思う。
しかし、それらのことは別にしても、主人公の暗殺者個人としての感情が揺れ動く様は、作品自体のていねいな作りと相まって、重く伝わってきた。
さらに、パレスチナ側の報復が始まってからの主人公たちの脅えは、観ている者にまで伝わってきた。
エリック・バナやダニエル・クレイグなど、暗殺チームの5人はその性格までも描き分けられていて、それぞれの特技を生かして作戦を遂行していく様はスリルに満ちていた。
また情報を提供する裏組織のボスやその息子も、良い役者ぶりだった。
報復がなにも生み出さないことへの恐怖、さらには、終わることのない報復の応酬の無力感、などが、見終わったあとにずっしりと残った。
最後の場面では、9.11テロで崩壊するあの国際貿易センター・ビルが映っている。
単なるサスペンスだけではない、社会的な問いかけも含んだ重い作品であった。