1991年 日本 120分
監督:岡本喜八
出演:北林谷栄、 風間トオル、 緒形拳、 樹木希林
ユーモア誘拐もの。 ★★★☆
誘拐ものの傑作と言えば、もちろん黒澤明の「天国と地獄」なのだが、この「大誘拐」もまた傑作だと思っている。
誘拐ものなのに、観ていてとにかく楽しい。
それもこれも、誘拐される大富豪の老女、柳川刀自を演じる北林谷栄が良いため。
和歌山県の山林王である大富豪の柳川刀自が、3人の若者(風間トオルなど)に身代金目的で誘拐される。
人格者で皆から慕われていた柳川刀自なので、柳川刀自を恩人と慕う凄腕警部(緒形拳)をはじめとして、警察は全力をあげて捜査を始める。
一方、誘拐された柳川刀自は、自分の身代金が5千万円と知って激怒する。
私を軽くみてもらっては困る、身代金はきりがいいところで百億にしろ、それ以下にまけてはいかん!
この映画の面白さは、誘拐された被害者が誘拐劇の主導権を握ってしまうところにある。
被害者が作戦を練り、誘拐犯達に命令を出していく。呆気にとられる展開である。これがまた微笑ましい。
こうして、捜査する警察と知恵比べをしているのは、実は誘拐された被害者となっていく。
被害者自身がなんとか誘拐劇を成功させて、誘拐犯が身代金をぶじに受け取れるように画策していくのだ。
なぜ柳川刀自はそんなことをする?
誘拐ものなのだけれど、悪い人が一人も出てこない。誘拐犯も含めて、みんな心優しい人ばかり。
一番腹黒かったのは、案外、誘拐された被害者の柳川刀自だったりして(笑)。
いや、原作では本当にそうなのですよ。
北林谷栄は遺作となった「阿弥陀堂だより」でも思ったのだが、どこまでが演技なのかがわからない。全くの自然体に見える。
そこが上手いんだろうね。
柳川刀自に絶対的な尊敬を抱いていて、誘拐犯達に隠れ家を提供する乳母こうちゃん役の樹木希林も、また好い。これ以上の適役はいなかっただろうな。
警察は誘拐犯達に被害者が無事でいる証拠を見せろと要求する。
そして、TV局の移動中継車が被害者の柳川刀自を撮影することになる。さあ、警察に捕まらないようにTVに出演するには、どうする?
それに、身代金に百億円を要求したのはいいが、その札束は並大抵の量ではないぞ。
どうやって犯人は安全に受けとるのだ?
全部、柳川刀自が仕切るんだな、これを。へえ~、なるほど~。
事件が決着し、柳川刀自は無事に解放される。
誘拐犯達はその後どうしたのか? 身代金の百億円はどこへ行ったのか?
気持ちの良い後日談が示される。
日差しが明るい大邸宅の縁側で、捜査をした警部と被害者だった柳川刀自が事件を振り返りながら茶飲み話をするのだが、まあ、その粋なことったら。