2010年 アメリカ 108分
監督:ダーレン・アロノフスキー
出演:ナタリー・ポートマン、 ヴァンサン・カッセル、 ミラ・キュニス、 ウィナ・ライダー
芸術のために崩れていく心。 ★★★★
映画を見終わったあとも、ナタリー・ポートマンの苦悩の表情が脳裏から離れない。
それほどに迫ってくる彼女の演技だった。
バレリーナのニーナ(ナタリー・ポートマン)にチャンスが訪れる。バレエ団のプリマ・バレリーナが引退することになり、その後釜として「白鳥の湖」のプリマに抜擢されたのだ。
しかし、「白鳥の湖」のプリマは、純真な白鳥役と、邪悪な黒鳥役の両方を演じなければならなかった。真面目なニーナにとって、邪悪な黒鳥を踊ることは大きな試練だった。
「白鳥の湖」の物語もよく知らなくて、知っていたのは代表的なメロディと4羽の白鳥が並んで踊る場面だけ。お恥ずかしい。
白鳥と黒鳥が王子を取り合う物語だとは知らなかった。
おまけに、その白鳥と黒鳥を同じダンサーが演じるのだということも知らなかった。お恥ずかしい。
しかし、無垢と邪悪、清純と肉欲、まったく正反対のこのふたつに感情ともに身を入れてしまったら、そりゃ自分が分裂してしまう。
”完璧”を目指せば目指すほど、自己が引き裂かれていく。辛い。
強迫観念で自分をますます追い込んでいってしまうニーナの心。
見えないものが見えるようになってくる。起こっていないことを体験してしまう。
妄想の世界にとらわれることの恐ろしさ、いや、とらわれざるを得なくなっていった悲しさ、苦しさが観ている者に伝わってくる。
バレー団のコーチ役がヴァンサン・カッセルなのだが、彼もニーナのなかから邪悪なもの、肉欲なものを引き出そうとする。
アーティスト、それにアスリート、自己の能力を極限まで引き出そうとする人たちは平凡な人には想像もつかないような次元での戦いをしているのだということが判る。
芸術のためになら、自分のすべてを捧げるのか・・・?
ニーナの苦悩を一層浮き彫りにしてみせるのが、ライバルのリリー(ミラ・キュニス)の存在。
リリーはニーナとは正反対の、(性的にも)自由奔放な天才型のバレリーナ。
幼い頃から厳格な母親にバレーだけの生活を強いられてきた努力型で真面目なニーナには真似のできない存在。
(努力型の人は、天才型の人が易々と課題をこなすのを見ると、ますます精神のバランスが危うくなるのだね。)
あの黒鳥のメイクのポートマンは鬼気迫るものだった。
ポートマン自身が、あの「レオン」で子役として登場して以来、ずっと映画の世界で清純型の女優としてやって来ている。
そんなポートマンの実像をニーナと重ね合わせてしまったりもする。
アカデミー主演女優賞も充分に納得のポートマンでした。