あきりんの映画生活

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「イレブン・ミニッツ」 (2015年)

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2015年 ポーランド 81分
監督:イエジー・スコリムフスキ

11分間の群像劇。 ★★★

この監督の作品は初めて観たのだが、どうやらヨーロッパの巨匠らしい。
名だたる映画祭で賞を獲っているようだ。

さて、この映画、81分ととてもコンパクトである。
描かれているのは午後5時から5時11分までの11分間の出来事だけ。
登場人物は11人。その11人の11分間を交互に描いていく。

ホテルの一室で面会している映画監督と出演希望の女優。
にやけた監督は含みのある質問をしたりして女優と懇ろになろうとする魂胆が見え隠れ(電話の線を外し、ドアにはこっそりと内鍵をかけたりしている)。
一方の女優はかっては乱れた男関係の噂があったらしいのだが、結婚したばかりで貞淑な妻になることを決心しているようなのだ。

そしてその妻を案じてそのホテルへ急ぐ夫。
なぜか顔に大けがをしているのだが、その理由は不明のまま。
ホテルに駆け込んできたのはいいのだが、しかし妻が11階のどの部屋で監督と会っているのか、わからないぞ。まさか、まさか妻は・・・。

そのホテルの前でホット・ドッグを売る男がいる。
彼は刑務所から出てきたばかりのようなのだが、その事情などは不明。
要するに、登場人物たちの人生は途中から切りとられている。このある日の夕方5時の彼らを見せられているわけだ。

麻薬中毒のホットドッグ屋の息子はバイク便配達をしているのだが、父に呼ばれてホテルへ向かう。
いつもホットドッグを買いに来る犬を連れた女もいる。彼女は恋人に振られたばかりのよう。
そのホテルの窓清掃人、そして休憩時間をいっしょに過ごした後ホテルの前のバス停へ去って行く恋人。
ホテルの前を通りかかる救急車には、スラム街から妊婦を助けてきた女性救急士が乗っている。

という風に、場面はそれぞれの人物の描写に頻繁に切り替えられる。
しかし観ている者が混乱することはない。きっちりとそれぞれの物語を追うことができる。
このあたりはさすがに巧みに撮っている。

わずか11分でいろいろなことが、それぞれ人には起こっている。
それはてんでんばらばらに展開される。お互いに無関係な人生がくり広げられている。
同じ街にいる人がそれぞれの11分を送っていただけだったのだ。

途中で、高層ビルの上を低く飛ぶ大型飛行機の映像が何回か挟み込まれる。
まるで、飛行機があの高層ビルに向かって飛んで行ったあの日、9月11日の惨劇を思い起こさせる映像である。
人の人生なんて、いつ何が起きるのか、わからないぞ、と言っているよう。

画面からは、なにか(不吉な)結末を予感させるようないろいろなノイズも聞こえてくる。
そして、ラスト・・・。

人々の運命は重なり合うのだが、それはこんな事だったのか、という感じ。
綿密に計算された人生ドラマがあるわけでもなく、どちらかといえば肩すかし感の方が強い。
実際の人生で無関係の人が重なり合うのはこんなことさ、とでも言っているようなのだ。

計算されつくしたイニャリトゥ監督が描く群像劇とは、まったく異なる群像劇である。
ブラックな無常観というか・・・、これはこれで、ありか。
緩むところのない81分間の群像劇でした。