1985年 日本
監督:黒澤明
出演:仲代達矢、 寺尾聰、 根津甚八、 原田美枝子、 ピーター
一大時代劇。 ★★★☆
ご存じ黒澤明がシェイクスピアの「リア王」を下敷きにして作り上げた時代劇。
戦国時代を勝ち抜いてきた猛将の一文字秀虎(仲代達矢)が主人公。
70歳を迎えた彼は、3人の息子にそれぞれ城を譲り、自分は三つの城の客人となって余生を送るつもりでいた。
兄二人は(うわべだけは)殊勝に父の言葉を聞いたのだが、三男の三郎は兄弟同士の争いが起こると諌言をして、秀虎の怒りを買ってしまう。
妥協を許さない黒沢なので、数億円をかけて城を作り、それを燃やしてしまう。
合戦の場面では千人のエキストラと200頭の馬をもちいたという。
さすがに画面は重厚感に溢れていて、揺るぎがない。
秀虎が家督を譲った途端に、太郎も二郎も父をないがしろにして、二人で跡継ぎ争いを始めてしまう。
まさかと思った長男と次男に惨めに追い払われる秀虎。
このあたりの展開は、原作のリア王を忠実に追っている。
あまりのことに発狂してしまう秀虎。
この映画を堂々たるものにしているのは、仲代達矢の演技に尽きる。
冒頭の自信に溢れた支配者の様子から、次々に居場所を失って放浪する姿まで、実にみごとに演じている。
眼の周囲を強調したメーキャップも物語に好く合っていた。
発狂した後も秀虎に終始付きそう道化役にピーター。
その熱演ぶりはわかるのだが、もうひとつ浮いてしまっているように感じた。
演劇指導に野村萬斎の名があったが、いっそうのこと彼が演じていたどうだったのだろう。
大体が太郎(寺尾聰)が情けない。
秀虎に恨みを抱く嫁(原田美枝子)にいいようにそそのかされて秀虎を追放して、挙げ句の果ては二郎(根津甚八)に殺されてしまう。
二郎も悪だと思ったが、もっと悪だったのはやはり太郎の嫁だったなあ。
太郎が死んだとたんに、二郎を色仕掛けでたぶらかして、正妻を亡きものにして自分の座を築こうとする。
なんという女だ。
黒沢時代劇とくれば、色鮮やかな旗指物と風である。
太郎の軍勢の赤、二郎の軍勢の黄色、三郎の軍勢の水色、そして最後に攻め込んでくる黒色。
旗指物が風になびく。どこか悲劇的である。
そういえば「用心棒」の宿場町でも風は吹き続けていて、砂埃が立っていた。
実は一番の父親思いだった三男に秀虎は迎えいれられて、やれやれと思ったら、(シェークスピアなのだから)悲劇で終わっていく。
見応えのある時代劇でした。
さて、次は「影武者」かな。