あきりんの映画生活

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「影武者」 (1980年) 黒澤明の戦国絵巻

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1980年 日本 180分
監督:黒澤明
出演:仲代達也、 山崎努、 根津甚八

戦国絵巻。 ★★★☆

 

一時は作品的にも興行的にも低迷した黒澤明が気を取り直して(!)挑んだ戦国もの。
当初は主役には勝新太郎を予定していたのだが、諸事情から仲代達矢に変更された。
この主役変更は作品にどう影響した?

 

天正元年、武田信玄仲代達矢)率いる甲斐の軍勢は東三河で城攻めをしていた。
まもなく城が落ちるという夜に、信玄は城内からの銃の狙撃で死亡してしまう。
今際の際に残した言葉は、我死すとも三年はそれを秘匿せよ、その間は決して動くな、というものだった。
さあ、どうする?

 

映画の主人公は、信玄とうり二つで影武者にされた盗人の男(仲代達矢の二役)。
はじめは、そんな影武者の役などできるものか、さっさと殺しやがれ! と息巻いている。
しかし、信玄の遺体を見、また以前に助命してくれた恩義を思い出し、自ら影武者になることを申し出る。

 

影武者は本来の自分の存在を消さなくてはならない。そして影としての役が終われば無用となる存在のもの。
主人公が影武者として上手く立ち回るほどに、その先に待つ陥穽は大きくなる。
この映画はそんな運命を引き受けた主人公をいかに描くかがポイントだった。

 

さて。
信玄の死。そして影武者の存在。これを知るのは重臣たちと影武者の身の回りに控えるごく少数の人間だけ。
敵ばかりか味方まで欺かなくてはならない。
無邪気な孫や、信玄の一挙一動を知っている側室たちをいかに欺くか。
このあたりは、いささかユーモラスな展開も交えながら、観ている者にバレやしないかとはらはらとさせて楽しませてくれる。

 

戦国ものなので、その撮影には莫大な費用をかけているのだろうと思う。
黒澤映画といえば、背に旗指物を負った大勢の騎馬武者の疾走場面を思い浮かべる。
風に旗がビュンビュンとなびくのだ。
そして朝焼け(夕焼け)空を背景にして丘の上に鉄砲隊がシルエットして現れる場面などは、いかにも黒沢らしい美意識だった。

 

しかし、影武者が悪夢にうなされる画面は、いかにもとってつけたような映像だった。
黒沢はのちに「夢」という映画も撮っているが、あれは酷いものだった。
黒沢は夢幻的なものを描くのは苦手だったのではないだろうか。

 

さて映画は、甲斐を取り巻く他国の織田信長徳川家康、そして上杉謙信の思惑も取り混ぜて、物語として変化もつけている。
3時間の長尺なのだが、飽きることはなかった。
そしてついに影武者の正体がばれてしまう日が来る・・・。

 

クライマックスは長篠の戦いである。
信玄の死が公になり、信玄の子・武田勝頼が織田・徳川連合軍と戦い大敗北を喫した戦いである。
この戦いは、勇名を轟かせていた武田騎馬軍を織田鉄砲隊が打ち破ったことで有名である。
鉄砲隊を3グループに分け、弾込めを順番に行うことによって連射を可能としたのだ。

 

しかし、この合戦場面はいただけなかった。全く駄目。
実際の戦闘場面は全く映されないのだ。ただ画面の外から銃声や叫び声、馬のいななきが聞こえるだけなのだ。
あとは戦いが終わった後の戦場風景が映るだけ。
どうしてこんな演出にしたのだろうか?

 

映画は落ちぶれた影武者が戦場を彷徨い、果てていく様で終わっていく。
不満もいろいろと残る映画ではあるのだが、力作であることは否めない。

 

カンヌ国際映画祭パルムドール賞を受賞しています。知らなかったなあ。