1993年 中国
監督:ニン・イン
老人たちの静かな生き甲斐を描く。 ★★☆
京劇の劇場で住み込みの守衛をしていたハンは定年退職となり、一人での生活が始まる。ありあまる時間にかっての職場を訪ねてみると、皆は親切にしてくれるが、やはり自分の居場所はそこにはもうない。
街をさまよううちに、路上で素人京劇を楽しむ老人たちと出会ったハンは、彼らのために公民館を利用できるようにしてやるが、些細なことからの諍いも起きる。
いつ頃の年代の中国を舞台にしているのか、わからないが、砂埃のたつ未舗装の道に車は少なく自転車ばかり。
人々は映画と浴場をおおきな娯楽としているような時代だ。日本で言えば、私のなかではそれこそ昭和30年代から40年代の記憶の風景と重なる。
華やかさはなく、事件らしいものも起きず、淡々とした老人たちの行動が描かれる。
時間もゆっくりと流れている。イメージは太極拳の緩やかさ。そこに京劇のあの鐘の囃子が重なる。
まだ30代の女性監督が作った映画とは思えないほどに落ち着きがある。
主人公のハンは終始不機嫌なような、苦虫をつぶしたような表情である。
頑固で、それでいながら人とのつながりを求めていて、そんな老人のいじらしさがよく表現されていた。
ベルリン国際映画で特別栄誉賞を受賞しており、ニン・インはこのあと「スケッチ・オブ・Peking」「アイ・ラブ・北京」という作品を作っている。
静かな佳作です。