あきりんの映画生活

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「シャングリラ」 (2008年) 悲しみから立ち直るためのロード・ムービー

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2008年 中国 108分
監督:ティン・ナイチョン
出演:チュウ・チーイン

悲しみからの再生。 ★★★

 

台北で満ち足りた生活をしていたジー・リン(チュウ・チーイン)は、突然、幼い息子を交通事故で失ってしまう。
しかし事故の加害者夫婦は目撃者がいないことを幸いに容疑を否認し、謝罪をしてくれない。
彼女は息子の死を受け入れられず、夫との関係も不安定になってくる。
そんなある日、ジー・リンは発作的に鞄一つを持って旅に出てしまう。

 

物語は静かに進み、画面も沈んだ色調を基本として落ち着いている。
ヒロインが住んでいた台北の都会風景(名所である101タワービルも映る。私が2度走ったことがある台北ラソンはこの近くからスタートした)と、彼女が旅をする中国北部の田舎風景の対比が美しい。
心地よい旋律がそこに重なるのだが、音楽担当は日本人だった。

 

実はジー・リンは、息子の部屋である雪山の絵が描かれたメモを見つけていたのだ。
それは生前の息子が、宝探しゲームのヒントだよ、と描いたものだった。ママ、頑張って宝を探してね。
突然亡くなってしまった息子が残したメモ・・・。
彼女は息子が残した宝物を探しに衝動的な旅に出たのだった。

 

映画タイトルの”シャングリラ”とは、イギリスの作家によって描かれた理想郷のこと。
そして絵に描かれていたのは、中国雲南省チベット自治区の境にある梅里雪山だった。
梅里雪山の麓の町を訪れた人が、ここはシャングリラのようだ、と言い始めたことから、町の名も香格里拉(シャングリラ)と変えてしまったのだ。
ジー・リンは息子が残した絵の山、梅里雪山を望むシャングリラに向かったのだ。

 

旅の道程で、彼女は色々な人と出会い、いろいろな風景に対する。
素朴な人々の無償の優しさや思いやり、そして雪山、湖、森林など雄大で美しい景観。
ロード・ムービーでもあるのだが、この映画の場合は悲しみにうちひしがれたヒロインの立ち直りという、かなり精神的な意味合いが含まれている。

 

物語のアクセントとして、彼女の旅に初めからつきまとう謎の若者がいる。
何気ない風で彼女に近づいてくる若者との交流が、ともすれば単調になりそうな映画に変化をつけている。
こいつは何者だ? 怪しい奴だな。

 

実は途中までは、この若者は実は死んだ息子が母を心配してあらわれた姿ではないかとも思っていた。
あの「鉄道員(ぽっぽや)」の広末涼子みたいな存在ではないかと。
全く違っていた。全く現実的なことだった(汗)。

 

やがて若者の正体も明らかになり、ヒロインの旅も終わる。
息子を死なせた交通事故を起こした加害者も、最後に許して欲しいと謝罪して白血病で死んでいく。
そして息子が、宝探しだよ、といってヒントを残していたものを探し当てるのだ。
そこには、ママ、とうとう見つけたね、という息子からのメッセージ・・・。
それによってヒロインは悲しみから立ち直れそうな予感で映画は終わっていく。

 

物語としてはベタではあるのだが、映像が美しく、全体の落ち着いた雰囲気の映画だった。
ヒロインを演じたチョウ・チーインは初めて見たが、映す角度によっては石原さとみをちょっと思わせる美形であった。