あきりんの映画生活

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「神のゆらぎ」 (2014年)

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2014年 カナダ 109分
監督:ダニエル・グルー
出演;グザヴィエ・ドラン、 マリリン・キャストング

群像ドラマ。 ★★★☆

ほとんどノー・チェックの作品だったのだが、好きな群像ものということで鑑賞。
3組の男女と1人の男という4つの話が描かれていく。
たがいにバラバラだった物語はひとつの飛行機事故を軸にからみ合っていく。

中心になるのはエホバの証人の信者の恋人たち、エティエンヌ(グザビエ・ドラン)とジュリー(マリリン・キャストング)。
二人はまだ結婚はしていないが、一緒に彼の家で暮らしている。
しかし、エティエンヌは白血病で、その治療のためには輸血が必要なのだが、信仰のためにそれはできないのだ。
ジュリーは看護師なのだが、彼女もまた同じ信仰のために彼の病状がすすむのを見守ることしかできないのだ。

エホバの証人は日本でもかなりの信者はいるのだろう。
知られているように、その信仰では、一度体外に出た血液をふたたび体内に受けいれることはできないのだ。
信者は輸血を拒否するために、しばしば交通事故などの大けが、手術や血液疾患の治療などの医療の場で問題となる。)

夜中、飛行機が墜落して、重傷のたった一人の生存者がジュリーの病院へ運び込まれてくる。
懸命に治療をするジュリーたちの医療従事者たち。

そのほかのカップルとしては、情熱的な不倫をしている老人と老婆がいる。
二人は一緒にキューバ旅行をしようと計画する。
そして、毎年キューバ旅行をするのが恒例となっている夫婦もいる。
しかし、アル中の妻とギャンブル狂の夫の関係は、すでにぎくしゃくとしてきている。

もう一人、過去の償いをするために麻薬の運び屋をした男がいる。
彼は二度とあらわれないと約束をして、空港のカウンター係の兄によってキューバ行きの飛行機に他人名義で乗り込むことになる。

これらの物語が入り乱れて映し出されるのだが、それほど混乱することはない。
ただひとつ、後半になって、ああ、そうだったのか、と判る仕掛けがある。
その仕掛けが明らかになったときに、4つの物語がぴたりと収まるようになっている。なるほど。

映画の中で2回繰り返される台詞がある。
エホバの証人の信者の勧誘に、一般の老人が答える台詞なのだが、それは、「飛行機が落ちたということは、万能の神がいないということさ。」

私のように無信仰の者にとっては、この台詞はもっともな考えだと思える。
極端に言えば、万能の神がもしいるのだったら、信者は病気にもならないし、事故にもあわないはずだ、と。
しかし信仰のある方は、それらのことは主による試練だと捉えるようなのだ。う~ん。

画面は静かで美しい。
ある種の緊張感が保たれていて、そこに不愉快な混乱はない。
ジュリー役のマリリン・キャストングも透明感のある美しさだった。

(以下、ネタバレ)

最後近く、ジュリーが他人の命を救うために自らに下した決断は辛いものだったろう。
他人を救うためのその決断によって、自分の中のある種の命のようなものは失われるのだから。
こうした(尊い)決断を”エホバ”はどのように見ているのだろう?

そしてこの映画の最後、ジュリーに告げる元同僚のひと言が切ない。「夕べ彼は死んだわ。」
ジュリーが差し出した命に匹敵するものは、いったいどこへ行ってしまったのだろうか。

映画は、時間軸の巧みな操作もあって、重層的な印象を与えてくれる。

ただ難点をいえば、訳あり人物たちが1点に集まってきたあとの展開が淡泊すぎた。
アル中妻とギャンブル夫は結局は飛行機に乗らず、不倫老人たちは死に、麻薬運び屋が瀕死で助けられた。
この運命の差にもう一工夫があれば、もっと傑作になった気がするのだが・・・。