1998年 日本
監督:中原俊
出演:小林薫、 風吹ジュン
同窓会で再開した大人の恋物語。 ★★★★
故郷へ戻ってきた浦山達也(小林薫)は、中学の同窓会で30年ぶりに早瀬直子(風吹ジュン)に再開する。
実は、中学の卒業式前日に、直子は勇気をふるい起こして浦川の耳もとに何かをささやいたのだが、そちらの耳の聴力を失っていた浦川には、その言葉は聞こえていなかったのだ。
寡婦になった直子は今は「コキーユ」という名前のスナックを開いてるのだが、あれからもずっと浦川のことを思い続けていたのだった。
コキーユとはフランス語で貝殻のこと。
卒業式のプレゼント交換で浦川が用意した貝殻を直子が手にしており、自分の店の名にしたのだった。
映画ではシャン・コクトーの詩の一節「私の耳は貝の殻 海の響きを懐かしむ」も引用されており、直子がうち明けた恋心が届かなかった浦川の耳の形にも貝殻は重なっているようだ。
物語は、愚直とも言える自分の思いにとまどう二人を淡々と追う。
そのとらえ方が優しくて、観ている者にもノスタルジックな感傷をよびおこす。
直子のなにも求めようとしない一途な恋心が切ない。
結ばれた二人の関係を妻に告白しようとする浦川を、浦川くんの幸せを壊したくないと言って、直子は止める。
そして、浦川くんとちゃんと恋が出来たからそれでいいの、と言う。
少女時代からのあこがれがかなったことだけで満足している直子は、転勤になる浦川を見送って故郷に留まる。
故郷に残った直子が、雪景色の中で傘を回している幸せそうな姿が映る。
ただ一度だけの関係の思い出で、これからの一生を直子は幸せに送っていけるはずだった。
だから、最後の瞬間まで彼女は幸せな思い出を抱いていられたのだろうと思える。
とにかく風吹ジュンが好演。
彼女の代表作ではないだろうか。小林薫も寡黙な主人公の役によく合っていた。
中年以後の年代向けの佳作。
若い人には、心情的にわかりにくいだろうな。