あきりんの映画生活

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「風の歌を聴け」 (1981年)

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1981年 日本 100分
監督:大森一樹
出演:小林薫、 真行寺君枝、 坂田明、 室井滋

神戸でのひと夏のお話。 ★★☆

言わずと知れた村上春樹の処女作を映画化したもの。
夏休みに故郷の神戸へ帰った僕(小林薫)が、旧友の”鼠”(巻上公一)や”双子”(真行寺君枝)たちと過ごした2週間ぐらいのできごとを、モノローグでつづっている。
村上春樹はこの映画の出来には不満だったという。そのためか、彼の長編小説の映画化はその後はまったくなされていない。

映画は映画として、原作とは切り離して観るべきなのだろうけれども、どうしても原作の肌触りを求めてしまう。
原作がお気に入りなら、なおさらだ。
ちなみに、私は「風の歌を聴け」は文芸新人賞をとったときの雑誌で読んでいて、単行本になったときは初版で購入している。
好い作家が出てきたなと思って、それからの初期三部作なども本が出るたびに買っていた。それぐらいのファンなのだが、村上春樹がまさかこんな大作家にまでなるとは思っていなかった。

それはさておき。
映画の登場人物や、”僕”が体験すること、”僕”が回想すること、などは、原作をかなり忠実になぞっている。
ただ、村上春樹の小説の場合、魅力の大きな部分はその文体にある。
だから、映画でその文体に匹敵するだけの映像を提示できたか否かが問われてしまうわけだ。

個人的な結論から言えば、かなりよい雰囲気には仕上がっているのではないかと思う。
当時の不安定な世情も反映しているし、そのなかで漂うような生活を送る若者特有のひ弱さ、その分のきれいさ、なども表されていると思う。
しかし、どうしてもそこには注釈が付いてしまう、それは、”村上春樹の小説の映画化だと思わなければ”ということ。

ジェイズ・バーのマスターをジャズ・サックス奏者の坂田明が演じていて、木訥としたしゃべりがなかなかに味があった。
映画冒頭のフリー・ジャズっぽいサックスは、たぶん坂田の演奏なのだろう。
坂田は第二期山下洋輔トリオのメンバーで、新宿ピットインや日比谷野外音楽堂などでのライブを聴きに行ったものだった。

真行寺君枝も好きな女優だった。
凛としていて、薄い唇にどこか薄幸な感じが漂っていた。今はどうしているのだろうか?
村上春樹の小説には双子の女の子はよく登場してくる。ただし、(アリスに出てくる双子とは違って)、二人が同時に現れることはない。
だから、今僕の目の前にいる女の子は双子のどちらなのだろうという謎がついて回る。
今作でも、真行寺君枝の小指の先があったり無かったりで、そのあたりを上手く表現していた。

小林薫は、唐十郎が主催している状況劇場から出発している。TVに引き抜かれた根津甚八の後釜だった。
彼が状況劇場で初めての主役を演じたときには、その芝居を見に行っていた。
芝居が終わっての紹介で、”新人・小林薫っ!”と紹介されて、少しはにかんだような表情で挨拶していたことを思い出す。
この映画の頃は未だメジャーでのデビューに近かったのではないだろうか。

そんなこんなで、出演者にもいろいろと思い入れがある映画となっている。
だから、まあ、なんやかにやで★2つ半です。

追記 : 映画の最後の場面、冬休みにもう一度ジェイズ・バーを訪れたときにはもう誰もいなくて、床からピーナッツの殻が舞い上がるところは良かったです。