あきりんの映画生活

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「ワルキューレ」 (2008年)

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2008年 アメリカ 120分
監督:ブライアン・シンガー
出演:トム・クルーズ、 ケネス・ブラナー

ドイツ軍内部者によるヒトラー暗殺未遂事件。 ★★★★

ナチスの非人道的な行為を裁ち切るために、ヒトラーの暗殺をドイツ軍将校の有志が計画する。
そこには、ドイツ国ヒトラー個人のものではないことを、ドイツのために示しておかなければならないという愛国心がある。

史実を知っているわけだから、当然ヒトラー暗殺は失敗に終わるという結果を知った上でこの映画は観られることになる。
だから映画は、どうなるのか、という結末に対する面白さではなく、どうするのか、どうしてなのか、という過程に対する面白さで成立することになる。
そして、それは成功していると思える。

登場人物が多く、反乱軍のなかでもそれぞれの思惑が微妙に異なり、これを整理しながら観るのはかなり大変。
だから、初登場の人物の氏名が表示されるのはありがたかった。

真面目そのものですすんでいくトム・クルーズもよかったし、ちょっと病的な人物の雰囲気を表してヒトラーも悪くなかった。

計画の核になるのは、非常事態に予備軍が動くというワルキューレ計画である。
ヒトラー暗殺と同時にこれを利用して首都を制圧しようとするのだが、トム・クルーズがそれを思いつくのはワグナーの「ワルキューレ」を聞いて、である。

しかし、この曲はどうしてもあの「地獄の黙示録」の印象的な場面を想起させてしまう。
だから監督としてはあまりこの曲を流したくはなかったのではないかとも思ってしまう。
で、映画中では非常に短くしか流れない。

この事件は、わが国の2.26事件を連想させる。
2.26事件でも、時の権力者に対して軍の若手将校が暗殺と実権奪取を謀ったのだが失敗する。
あのときの不成功の要因は、天皇詔勅によって反乱軍が国賊だとされたことであった。
それによって実働部隊が反乱を止めている。

ワルキューレでの不成功の大きな要因は、首都制圧の実働部隊(予備軍)の指揮官が暗殺計画の仲間ではなかったことではないだろうか。
だから、ヒトラーが生きていたという一事だけで即座に実働部隊が反乱軍制圧部隊に変貌してしまう。

もし、ヒトラーが生きていても実働部隊がそのまま制圧を続けていたら歴史はどうなったのだろうか?
ただ、これは映画の評ではなく、ワルキューレ事件そのものの感想である。
(実働部隊の指揮官が、私の声が判るな、というヒトラーからの電話を受ける場面の盛り上がりはすごい。)

一時は反乱計画は成功したかにみえる。
つぎつぎと反乱軍の制圧範囲が広がっていく。
しかし、観客はこれが失敗することを知って映画を観ている。
そのあとすぐに、急転直下して反乱が失敗に変わっていくときの挫折感も印象的に描かれていた。
電話交換手など、協力していた民間人が反乱本部から退去していくときの悲哀もよくあらわれていた。

愛国心とは個人に対してなされるものではなく、国民に対してなされるものだという主人公たちの思いはよく伝わってきた。
さて、それでは、今の日本での愛国心とは?

(どうでもいい余談)

このヒトラー暗殺の失敗は、あまりに暑くなったその日の気候のために、作戦会議の場所が変更されたことが大きく関わっている。
気候による要因までも見こして計画を立てたのは、あの赤壁(レッド・クリフ)の戦いでの孔明だったが、もちろん、そんなことを言い始めてはいけません(笑)。

派手なアクションとかとは無縁の、緊迫感あふれる映画でした。