2008年 イギリス 120分
監督:ダニー・ボイル
出演:デヴ・パテル、 フリーダ・ピント
貧しいインドの青年が多額の賞金のかかったTV番組に出演する。 ★★★★
作品賞、監督賞などアカデミー賞の8部門を獲得した話題の映画で、大まかなストーリーはいたるところで紹介されている。
いわく、ムンバイ(私たちの年代の者はボンベイという地名で習ったインドの都市だ)のスラム街に育った無学の青年が、わが国でもおなじみのTV番組「クイズ・ミリオネラ」に出演し、史上初めての最高賞金金額の問題にまでたどりつく。
彼が難問に答え続けることができたのは何故だったのか? というものだ。
華やかなTVのクイズ番組と並行して、そのクイズの解答に関係した彼のこれまでの悲惨な生い立ちが明かされていく。
非常に上手な構成。
わが国では信じられないようなスラム街での生活の実体が映し出され、母が宗教問題で虐殺されて孤児となったジャマールは、兄と二人でなんでもして生き抜いていく。
そうして成長したジャマールにだされる問題。
たとえば、ある歌の作詞家は誰だったか?という問題。
その歌は、貧しい子ども達を利用して金儲けをしているギャングに歌わされた歌だったのだ。
そして盲目な子供が歌えば施しが2倍になるという理由で、目をつぶされるところだったのだ。
また、ある拳銃の発明者は?という問題。
その拳銃を使って兄は殺人をして、二人はやっと生き延びてきたのだった。
そして物語のもうひとつの軸に、幼いころに巡りあってからずっとジャマールが恋してきたラティカがいる。
二人は幾度となく過酷な運命に翻弄されて別れ別れになる。
しかし、ジャマールの一途な恋心は最後まで途絶えることはなかったのだ。
クイズ番組の司会者は老獪で、憎らしい。
ジャマールが登場したときは無学な貧しい青年ということで小馬鹿にした態度をとる。
思惑に反してジャマールが勝ち進んでいくと、こんなに答えられるはずがない、インチキをしているはずだと決めつけて警察に逮捕させたりする。
そんな司会者なのに、ジャマールはあくまでも好青年で、みている方が歯がゆくなるほどであった。
この映画の惹き文句は「運ではなく運命だった」というものだが、良く内容を表している。
ジャマールに出された問題が彼の生い立ちにことごとく関係していたのは、運命だったというわけだ。
そして最後の問題も、また運命の内容だったのだ。
たどりついた最後の問題で、見ている人は大きなカタルシスを感じることが出来るだろう、ああ、この問題は・・・、という具合に。
描かれる内容は重く、悲惨である。
しかし、生きつづけようとする幼い兄弟のたくましさがときに微笑ましい。
ラスト近く、弟のためにある行動に出る兄。
兄弟愛を描いた映画という側面からみる事もできる。
ジャマールは貧しさを思い知らされようが、育ちを馬鹿にされようが、いつも真面目だったのだ。
だから見ているあいだも決して嫌な気持ちになることはない。清々しい。
嬉しかったのは、エンドロールでインド映画ではお約束の群舞があったこと。
物語の最後の場面となるプラットフォームで、インド音楽特有のリズムに合わせて軽快な踊りがくりひろげられる。
主役の二人が前列にいて、後ろできちんと整列した大集団が踊るという、例のあの群舞形式だ。
途中では、幼かった頃の二人が踊る映像もでてくる。
幸せ感で泣けてきた。
見て十分に満足できる映画です。