1980年 日本 118分
監督:村山透
出演:松田優作、 加賀丈史、 小林麻美、
大藪春彦原作の角川映画。 ★★★
元戦場カメラマンが、社会人としての仮面をかぶりながら、その裏で秘密カジノを襲い、銀行強盗を行う。
とにかく松田優作の狂気の演技を観るべし。この映画はそれにつきる。
この映画のために彼は減量し、頬を痩けさせるために奥歯を4本抜歯して撮影に臨んだという。すさまじい執念である。
冒頭近くで、アルビノーニのアダージョを一人恍惚の表情で聞く場面がある。
顔の立ち位置を変えずに身体だけがぐにゃんと折れ曲がるポーズは、鬼気が迫っていた。
大藪春彦原作と書いたが、主人公の人物造形は全く違うものとなっている。
小説の方は悪人なのだが復讐というお題目はあるし、それなりの美意識もある。要するに格好良く描かれている。
ところが映画の主人公は、全くキレテいる。
格好がいいとか悪いとかも次元を突き抜けてしまっている。
そこがすごい。
特に銀行強盗を行って逃亡していく夜行列車での場面がすごい。
執拗に追いかけてきた刑事に拳銃を突きつけ、松田優作がリップ・ヴァン・ウィンクルの物語を話して聞かせるのだが、このときの眼の状態が本当にこの世のものではなくなっている。
後半、廃墟のなかでの狂態は、もう何を叫んでいるのかもよく聞き取れないほどのテンションとなっている。
そして、ラストの日比谷音楽堂でのコンサート場面。
はたして松田の取ったあのポーズはなんだったのだろうか?
アフロヘアの加賀丈史も、陽性な狂気で、こちらも悪くない存在感。
松田と加賀が出会う深夜のスナックでは、ペドロ&カプリシャスの初代ボーカルだった前野曜子が「ときには母のない子のように」を歌っていた。
「蘇る金狼」「探偵物語」と並んで、この映画は松田の代表作だと思っている。
(「家族ゲーム」も評価が高いが、わたしにはもうひとつだった)
もし松田優作が生きていたら、どんな映画を見せてくれたのだろうかと思ってしまう。