1970年 フランス 140分
監督:ジャン・ピエール・メルヴィル
出演:アラン・ドロン、 ジャン・マリア・ボロンテ、 イブ・モンタン、
ブールヴィル、 フランソワ・ペリエ
フレンチ・ノワールの傑作。 ★★★★
刑務所から出所したばかりのコレー(アラン・ドロン)は、早くも宝石店襲撃をおこなうつもりでいた。
一方、マッティ警視(ブールヴィル)に護送されていたボージェル(J・マリア・ボロンテ)は列車から逃げ出し、コレーの車のトランクに隠れる。
こうして二人は、お互いの素性も知らぬままに出会う。
原題を直訳すると「赤い輪」であり、映画は、運命に導かれるように出会ってしまう5人の男たちのドラマである。
ストーリーは特に謎めいたひねった部分があるわけでもなく、淡々とすすむ。
派手なアクションがあるわけでもない。
逆に、ストーリー展開はやや冗長な感じがするぐらいにていねい。
今の感覚からすれば、なぜこの部分がこんなにゆっくりと描かれるのだ?と思ってしまう部分が、特に前半部では、少なくない。
しかし、この映画は一つ一つの画面を楽しむ映画である。抑えた色合いも美しい。
人気のない畑の中に車を止めたコレーは、拳銃を手にトランクから出てきたボージェルと初めて顔を合わせる。ここは渋い。
拳銃をつきつけているボージェルに、コレーは無言で煙草とライターを投げて渡す。
コレーは信頼の紐を投げたのであり、これにより二人のあいだに男同士の友情が成立する。
言葉で書くと歯が浮くようだが、これはメルヴィルが描いた美学である。
格好良い。
二人に射撃の腕を見込まれた元警官のジャンセン(イブ・モンタン)は、今はアルコール中毒の幻覚に悩まされている。
しかし、仕事を頼まれた彼はアルコールを断ち、射撃の訓練をはじめ、狙撃に用いる特別な銃弾まで自分で作る。
紳士然としたモンタンが黙々とプロフェッショナルな仕事をこなしていく様は、これもきまっている。
肝心の狙撃の場面。三脚に銃を固定して狙いをつけていたのを、ジャンセンはやおら自らの手で持ち直して狙いをつけて、そして撃つ。
コレーもボージェルも、そして観客もあっと思う。
ここも男たるものの美学である。
余分な台詞はなく、男たちはみな寡黙。
音楽も時折りジャジィーな音楽が小さく聞こえるだけ。静かに夜が更けるような映画なのだ。
この映画は、何が描かれているか、ではなく、どのように描かれているか、を味わうものだろう。
重要な登場人物としては女性が一人も現れない。徹底的に男だけの物語である。
3人の男たちを執拗に追うマッティ警視ですらも、彼らに絆のようなものを感じ取っているように思えてくる。
やがて4人が一堂に出会うクライマックス。
ボージェルの男気もいいのだが、それ以上にジャンセンが可哀想なほどに哀れ。
しかし、仲間のために生きた時間を持ったジャンセンはおそらく幸せだったのだろう。
このクライマックスは少しあっさりしすぎていた。
もう少し情感を出して引っ張ってくれても良かったのに、と、思ってしまう。
逆に言えば、それだけ彼らの最期をじっくりと見届けてやりたかったと思わせるものが映画にはあったと言うことなのだが。
アラン・ドロンをはじめ、寡黙な男たちがとにかく格好良い映画。
今年の冬は襟を立てたトレンチ・コートを着なくては・・・。
ベルトは無造作に結ぶのだな。