2019年 アメリカ 131分
監督:ライアン・ジョンソン
出演:ダニエル・クレイグ、 アナ・デ・アルマス、 ジェイミー・リー・カーティス
クリス・エバンス、 クリストファー・プラマー、 トニ・コレット
名探偵の殺人事件謎解きもの。 ★★★☆
アガサ・クリスティーに捧げたという本作。
とすれば本格ミステリー、ハードな謎解きものを期待してしまうところ。
しかし、ちょっと違った。言ってみれば倒叙ミステリー風であった。
館という限られた空間が舞台、ナイフで首を切られて死んだ老富豪ハーラン(クリストファー・プラマー)がいて、それぞれに動機を抱えた親族が集まっている。
そしてピアノの音と共に登場する名探偵ブラン(ダニエル・クレイグ)。
その助手を老富豪殺害の動機を持たない看護師アニタ(アナ・デ・アルマス)が務める。
探偵と助手は事件の真相へ迫ることができるのか、という設定。
これは推理ものファンなら、待ってました、というお膳立て。
老富豪の死は、当初は自殺かとも思われていた。
しかし、謎の人物によって雇われてこの屋敷にやってきた名探偵は、これは殺人事件だと捜査を開始したのだ。
さあ、関係者からの証言を集めるぞ。
誰がどんな動機を持っていて、誰が犯行時刻に何をしていたんだ? そして、嘘をついているのは誰だ?
資産家の一族って、みんな事情を抱えているのが通例。
みんな老富豪にたかって(!)生活していたんだねえ。お金は人を駄目にしてしまうんだねえ。
面白いのは看護師アニタの特異体質。
なんと彼女は嘘をつくとあまりの気持ち悪さに嘔吐してしまうのだ。
正直者の彼女。だから彼女の証言だけは無条件に信じていいというルールが成り立っている。
これは映画を面白くしている要素のひとつだった。
脇役も豪華である。
キャプテン・アメリカでは優等生だったはずのクリス・エヴァンスが一家の問題児役。
もう悪賢いことを企んだりする。
それにお高くとまったジェイミー・リー・カーティスや、型破り宗教家のトニ・コレットなど、ひと癖もふた癖もある人物像にぴったりだった。
(以下、完全ネタバレ)
実はハーランはある状況に陥った結果、自殺をしたのだった。
そしてその状況を作ってしまったアニタを助けるべく、ハーラン自身が策を弄したのだった。
だからここからは、観ている者はアニタの犯したことがブランにバレやしないかとハラハラしながら映画を観ることになる。
始めから謎だった誰が、何のために、ブランに捜査を依頼したのか、という謎も、見事に種明かしが為されていた。
なるほど、納得。クリス・エヴァンスも悪よのお。
それにしても、どうしても引っかかってしまったのは、これ無自覚なのだけれども、アニタは自殺示唆の罪には問われないのだろうか、ということ。
彼女が、10分後には死ぬ運命だ、と言わなければハーランも自殺しなかっただろうから。
でも、それには触れないのが好いのだろうな。
部屋に飾ってあった短剣のにも気持ちよく一杯食わされた。
それに、冒頭に映った「マイ・ハウス」と書かれたマグ・カップが、最後の場面で皮肉たっぷりに映ったところは、お見事!だった。