あきりんの映画生活

映画鑑賞だけのブログです(苦笑)。★★★★が満点評価ですが、ときに思い入れ加算があります。

「廃市」 (1984年)

f:id:akirin2274:20200414213122j:plain

1984年 日本 105分
監督:大林宣彦
出演:小林聡美、 山下規介、 峰岸徹、 根岸季衣

文芸作品。 ★★☆

 

原作は福永武彦の同名小説。
彼は堀辰雄などとも親交のあった純文学者だが、別名で推理小説を書いていたり、映画「モスラ」の原作者のひとりであったりもする。へえ~。

 

さて、物語の舞台は運河のある街Y市。
原作のモデルとなったのは九州の柳川で、撮影も柳川でおこなわれている。
タイトルの”廃市”という言葉は、柳川出身の北原白秋の作品から福永がとったようだ。

 

卒業論文を仕上げるために江口(山下規介)は、かってのある一夏をそのY市の旧家で過ごしたことがあったのだ。
Y市が火事になったという新聞記事に、江口は十数年前のそのひと夏のことを思い出す。
その旧家には祖母の面倒をみる安子(小林聡美)がいた。

 

監督は先日亡くなった大林宣彦
大林監督の尾道三部作、新尾道三部作は、どこか郷愁に溢れていて好きだった。
(中では「時をかける少女」と「ふたり」が特にお気に入りである)
この映画に流れるナレーションも大林監督自身。訥々とした語り口である。

 

映画全体の雰囲気は静かで暗い。そして画面は美しく抒情的。
Y市はいたるところに水路がめぐらされていて、そこを行き交う舟が主たる交通手段であるような街である。
水を行く舟の櫂の音だけが聞こえてくるような、そんな映画である。

 

安子は江口に、ここは死んでいく街だ、といった意のことを告げている。
そうなのだ、これは死んでいく静かな街での、諦観にも似た愛が交差する映画だった。

 

安子には結婚している姉(根岸季衣)がいるのだが、その姉はなぜか寺で生活している。
そして取りのこされた義兄(峰岸徹)は家を出て愛人と暮らしている。
表面上は義兄の浮気で夫婦関係が破綻したように思えるところだが、実は、義兄は誰よりも姉を愛しているのだった。
しかしその姉は義兄の愛が信じられずに、半ば病的にその愛を拒絶しているのだ。

 

(以下、物語の後半)

 

二人の間で揺れうごく安子。
そして安子を通してそんな人間関係を知っていく江口。
実は、安子も義兄を愛していたのだ。
そして姉は、義兄も安子を愛しているのだろうと思い込んでいたのだ。
そんな義兄は愛人と無理心中をしてしまう。
それは、すれ違ったままの愛の終わり方だったのだ。

 

語り手である江口は、ただその街を通り過ぎていくだけの存在である。
ひと夏だけ滞在した、いわば旅人にすぎない。旅人はどこまでしてもその土地には迎え入れられることはない。
そうした通り過ぎる人の目から見た街と、そこに住む人が描かれている。
そんな疎外感も郷愁の一部となっているのだろう。

 

予定外に取れた2週間の夏休みに、16mmカメラで撮影したとのこと。
大林監督らしい地方都市を舞台にした作品で、どこまでも郷愁にあふれていました。