あきりんの映画生活

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「花の影」 (1996年)

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1996年 香港 128分
監督:チェン・カイコー
出演:レスリー・チャン、 コン・リー

愛と憎しみ。 ★★★★

 

チェン・カイコー監督はときどき”とんでも映画"を撮る。
先日観た「キリング・ミー・ソフトリー」も、どうしてこんな映画を?と思ったし、最近では「KUUKAI空海」などというヘンテコナものも撮っている。
しかし本作はあの「覇王別姫」の3年後の作品。
主演もレスリー・チャンコン・リーの顔合わせならば、これはもう間違いないだろう。

 

1910年代の蘇州、忠良の姉は大富豪パン一族に嫁いだ。
そして少年だった忠良もその家の召使いとして働くこととなるのだが、その日々は暗い影を彼に落とす。
一族をむしばんでいた阿片や、姉の歪んだ愛情、などなど。
そりゃ初めての情交の相手が実の姉では、純真な少年の心も歪んでしまうのも無理はないなあ。

 

月日が流れ、やがて上海ジゴロとなった忠良(レスリー・チャン)はマフィアの一員となっていた。
忠良が資産家の夫人を誘惑しては、組織がそれをネタに金を脅し取るという手口。
そして次に忠良が命じられた誘惑の相手は、あのパン家の一人娘、如意(コン・リー)だった。
彼女の兄(忠良の義兄に当たる)は阿片中毒で廃人となっており、古老たちの決断で如意が一族の長となっていたのだ。

 

マフィアの本拠地である西洋化の進む魔都上海と、パン家のある昔ながらの中国風情の古都蘇州。
片方では時代がどんどんと進み、もう片方では時が止まっている。
二つの場所を行き来しながら物語はすすむ。

 

カメラはクリスチャン・ドイル。やはり彼の撮る画面は美しい。
この映画では、いつも薄衣を1枚被せたような滲みが画面を覆っていた。
抑えた色調のその事物の輪郭の淡さは、不確かに揺れうごく登場人物たちの心をあらわしているようだった。

 

白い三つ揃いスーツ姿のレスリー・チャンはどこか浮世離れした美しさがあり、華があった。
一輪の赤い薔薇の花を手にして殺し文句を囁けば、女性は誰でも墜ちてしまうのだろうな。
一方のコン・リーは、常に口を半開きにしていて、半ば放心したかのようなあえかな風情。
復讐心に燃えるあだ花のような強さと、物事にどこまでも流されていくだけの儚さと。
そんなものが陽と陰、動と静をあらわしているようだった。

 

男は復讐のために女を騙し、女は騙されながらも必死に男を愛する。
古い屋敷の人影のない部屋や回廊での、男と女の恋の駆け引き。
そして騙していたはずの男もいつしか愛にとらわれて・・・。
しかし、歪んだ愛にすがる姉は忠良にすがって慟哭し、その歪んだ過去から逃れられない忠良は蘇州を去る。

 

いなくなった忠良を追って、魔都上海に義弟の端午と一緒に赴く如意。
古老たちによってパン一族のために利用されてきた気の弱いこの端午が、魔都上海の魅力にとりつかれる。
そして義弟の端午は豹変していき、忠良のジゴロ姿に恋の終焉を見る如意・・・。

 

如意はなにを振り切ったのだろうか。
今度は蘇州まで追いかけてきた忠良を無表情に拒絶する如意。
愛したときには愛されず、愛されたときには愛はすでに去っていた・・・。
すれちがう二人の恋心。どうしてこうなってしまったのか・・・。

 

物語の最後、変わり果てた如意の姿の、言葉にならない哀切。
なんという残酷な仕打ちを運命は如意に与えたのか。

 

そのあとに、オープニングで無邪気に走りまわっていた子供時代の3人、如意、端午、そして忠良が映る。
まっすぐにこちらを見つめる無垢な如意の眼が印象的だった。
さすがにチェン・カイコー監督!、といった作品だった。