あきりんの映画生活

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「リアリティのダンス」 (2013年)

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2013年 チリ 130分
監督:アレハンドロ・ホドロフスキー
出演:ブロンティス・ホドロフスキー、 アレハンドロ・ホドロフスキー

悪夢のような自叙伝、前編。 ★★★

 

初めて観たホドロフスキー監督の作品はあの「エル・トポ」だった。
そして仰天した。こんな映画があるのか!
それ以来、(体調のいいときをねらって)ホドロフスキー監督の作品は追いかけてきた。
これは、84歳になったその監督が、自伝を元に23年ぶりに撮った作品。

 

1920年代、軍事政権下のチリの田舎町。
アレハンドロ少年は、ウクライナからの移民である両親と一緒に暮らしていた。
原色が溢れているような街で、近くの炭鉱では伝染病が発生したりしている。
もうこの舞台からして半ば悪夢を観ているような光景である。

 

女性下着店を営む父ハイメ(ブロンティス・ホドロフスキー、監督の息子である)は厳格で横暴であり、アレハンドロ少年の怪我も厭わずにしつけようとする。
一方で母サラ(パメラ・フローレンス)は、アレハンドロ少年を自分の父の生まれ変わりと信じていて、過剰な愛情を押しつけてくる。
豊満な肉体の母親は、すべての台詞を歌で伝えてくる。そして少年に金髪のカツラを被ることを強要している。

 

田舎町は幻想的なイメージの舞台でもある。
四肢を欠損した人たちや小人症といったフリークスは、ホドロフスキー監督映画ではよく登場する。
サーカスに集う人もあらわれる。
主人公と仲良くなる半裸にピアスの行者も、フリークスといえるかもしれない。
親友に高価な靴をあげたことによって、その親友が海で死んでしまったりもする。

 

映画の中盤からは、少年の視点を離れて父親の物語となっていく。
ユダヤ人の父は共産主義者で、家の壁にはスターリン肖像画が飾られていた。
そして、チリの独裁者イバニェス大統領の暗殺をおこなうべく首都へと向かうのだ。

 

しかし、その暗殺計画も、あんた、何やってんのといった展開なのだ。
挙げ句の果てに父親は記憶喪失となって彷徨ったり、ナチスに捕まってグロテスクな拷問(あれは痛いなんてものじゃないだろうな)を受けたりする。
気のよい女に拾われたり、家具職人に助けられたりする。

 

父親を究極的に救うのは、豊満な妻(少年の母親)である。
ペストに罹り、死が目前の状態で帰還した父親を、全裸になった妻は自分の聖水をかけることによって治してしまうのである。
このあたりには何か宗教的な寓意が込められていたのかもしれない。
そんなことは判らないままに、呆気にとられて映画を観ている私がいる(笑)。

 

母親は、暗闇を怖がる主人公に、自分も闇になってしまえばよいのよ、と歌いながら全身に黒の塗料を塗る。
母自らも全裸になって塗料を塗って真っ黒になる。
どこか突きぬけた母親である。

 

この両親は、どちらもどこか極端な愛情でアレハンドロ少年に接している。
両親は幼い少年の目にはこのように映っていたわけだ。
そしてそれは、84歳になった今の自分が、少年の日の自分はこのように両親を捉えていたのだろうなと解釈しているわけだ。
アレハンドロ監督は、自伝なんて今の自分が作り上げた虚構さ、とでも言っているようだ。

 

映画の最後に、3人の家族は田舎町を離れて船に乗って旅立とうとしている。
2016年にはこの続編にあたる「エンドレス・ポエトリー」が作られている。
さてアレハンドロ少年は、このあとどんな悪夢世界の住人として成長したのだろうか。