あきりんの映画生活

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「鉄道員」 (1956年)

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1956年 イタリア 115分
監督:ピエトロ・ジェルミ
出演:ピエトロ・ジェルミ、 シルバ・コシナ

市井の一家を描く。 ★★★

 

舞台は第2次世界大戦後のイタリア。
一人の鉄道機関士の家庭に起こる一年間の出来事を描いていく。
同じピエトロ・ジェルミ監督の傑作「刑事」の3年前の作品である。

 

特急の運転に誇りを持っている初老のアンドレア(ピエトロ・ジェルミ)は、頑固者で大の酒好き。
仲間からは慕われているのだが、長女のジュリアと長男のマルチェロからはその頑固ぶりから敬遠されていた。
しかし、まだ幼さの残る末息子のサンドロには誇らしく思われている。
うん、これは嬉しいことだろうな。

 

一家の様子を、彼ら自身に寄りそいながら描いていく。
妊娠していた長女は父親が飲んだくれている間に流産してしまい、長男は父親に反発してぐれていく。
そんな家族を、妻のサーラが献身的に支えている。
う~ん、どこの家族も何かしら大変な問題を抱えているものなのだな。

 

今作も主演はピエトロ・ジェルミ監督自身。
刑事を演じても機関士を演じても、ちゃんとそれになりきっている。上手いものだ。
長女のジュリア役が美しい女優さんだなと思いながら観ていた。
シルバ・コシナだった。
当時23歳の彼女はこの映画で脚光を浴びて、以後はさまざまな映画に出たようだ。

 

市井の人々にも大きなドラマは起こる。
アンドレアの運転する特急が飛び込み自殺を図った青年を轢いてしまったり、会社の労働組合が決行したストを、アンドレアが破ってしまったり。
さらにはジュリアが不倫騒動から離婚したり。

 

こうした物語を幼いサンドロの目線で描いているところが秀逸。
子どもには判らないこととして説明しない部分があることで、観ている者にかえって伝わるものがある。

 

そしてサンドロは何度も大人との約束を破ってしまっては、問題を大きくしてしまう。
他の人には黙っていてね、と頼まれたことを、ついしゃべってしまうのである。
しかし、子どもはしょうがないなあ、子どもだからしょうがないなあ、と思わせる。
この苦笑してしまうような、大人の自分勝手な深刻さと子どもの無邪気な振る舞いのギャップは、ユーモア感も漂わせていた。

 

この映画の有名なテーマ曲も、「死ぬまで愛して」と同様にカルロ・ルスティケッリの作曲。
この曲は幾度となく映画の中で流れる。
昔、映画を観る前から耳にしていたサウンドトラック盤には2つの短い声が入っていた。
あの哀愁を帯びた旋律から、勝手に夜のなにか落ち着いた場面に流れているのだろうと思っていた。
台詞もなにか深刻な、意味深長なものなのだろうと思っていた。

 

映画を観たら、まったく違っていた。
何と、朝の明るい場面だった。
曲の途中に入っていた声は、階段ですれちがった人の「お早う」という挨拶と、走っていく子どもたちの「早く来いよ」という叫び声だった。
なあんだ・・・(苦笑)。

 

「刑事」もそうだったが、この時代のヨーロッパ映画は独特の雰囲気を持っている。
久しぶりに観ると、何かほっとするような気持ちになる。
もちろん、本作は名作です。