2003年 ロシア 111分
監督:アンドレイ・スビャンギンツェフ
再会した父と子のドラマ。 ★★★★
アンドレイ・スビャンギンツェフ監督39歳の時の第1作。
本作で、いきなりヴェネチア映画祭で金獅子賞と新人監督賞をダブル受賞している。
さて、どんなだろうか。
ロシアの片田舎、アンドレイとイワン兄弟は母とひっそりと暮らしていた。
そんなある日、12年前に家を出て行ったきり音信不通だった父親が帰ってきた。
寡黙な父は近寄りがたい雰囲気で、父の顔も覚えていない兄弟は途惑ってしまう。
そりゃあ、いきなり私が父親だよと言われても困ってしまうよなあ。
しかも、その父なる人物は親しげに接してくるどころか、どこか高圧的なのだ。
なぜ、12年間も不在だったのか、父も母も説明してくれない。なぜ、今ごろになって帰宅したのか、説明してくれない。
(観ている者にも説明はまったくないので、謎のままに物語はすすんでいく)
父親は子どもたちのことをどう思っている?
そして兄弟はいきなり車での小旅行に連れ出される。
えっ、何のための旅行?
相変わらず父は寡黙で、笑顔もない。時に口を開けば命令口調である。
兄のアンドレイは、それでもなんとか父を認めて意志疎通を取ろうと努力する。
それに引き替え弟のイワンは真っ向から父に反発する。
こんな旅行、ぜんぜん楽しくないよ。あんたなんか帰ってこなければよかったんだ。
言うことを聞こうとしないイワンを、父は雨の中で置き去りにしたりもする。
始めのあたりで母が登場したきりで、あとは父と兄弟の3人だけで物語はすすむ。
旅行の間に起こる出来事が綴られていく。
3人の間に、特に父とイワンの間には不穏な空気も流れて、その緊張感はすさまじい。
この旅行の目的は何なのだ? 父子の親睦とはほど遠い雰囲気だぞ。
父が目的も意味も不明な謎めいた行動をとるので、不安感も漂っている。
電話で奇妙な指令を受けた父は、兄弟を連れて小舟で誰も住んでいない島へ渡る。
そこには朽ちた建物があり、父は隠されていた鞄から何かを取り出したりもする。
だが、それらのことが物語にどのように関係していたのかもわからないままである。
おそらくそんな説明は、描きたかった事柄には不要のことだったのだろう。
ただ12年ぶりに帰ってきた父と息子達のやりとりだけを描きたかったのであって、謎めいた部分は3人の感情を際立たせるための小道具だったのだろう。
(以下、最後の部分に触れます)
ついに決定的に父に反抗したイワンは危険な櫓の上に上ってしまう。
(冒頭に、少年たちが高いところから飛び込みを競う場面が布石になっていた)
そのイワンを助けようとして、父は転落死してしまうのである。えっ!
秀逸なのはそれに続く場面。
父の遺体を乗せて兄弟は小舟で島から帰ってくる。
しかし2人が降りた後で遺体を乗せたままの小舟は沖に流されてしまう。
そこで父の遺体と共に小舟は海に沈んでいくのである。
これは何だったのだ?
見終わった後に、はっきりと言葉では説明できないような感情が激しく揺さぶられるような映画であった。
確かにすごい映画であった。
なお、兄アンドレイ役の少年が本作撮影終了後にロケ地だった湖で事故死している。