あきりんの映画生活

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「不毛地帯」 (1976年)

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1976年 日本 181分
監督:山本薩夫
出演:仲代達也、 丹波哲郎

政財界の暗部を描く社会派ドラマ。 ★★★☆

 

華麗なる一族」に続き、山本薩夫監督が山崎豊子の同名小説を映画化している。
今作も豪華俳優陣、重厚な物語で、さすがの出来映えとなっている。

 

物語は、膨大な国家予算が動く次期主力戦闘機の買い付けをめぐって、暗躍する商社と、それに癒着する政財界を描いている。
時代は昭和30年代で、ラッキード社やらグラント社やらの社名が出てくる。
実際にロッキード事件、そしてダグラス・グラマン事件というのもあったが、この映画とどちらが先立ったのだろう?
(ちなみにロッキード事件で逮捕されたのは田中角栄。この映画の総理大臣は岸信介のようだ。)

 

主人公は元関東軍参謀だった壱岐(仲代達也)。
終戦と同時にシベリヤへ抑留され、過酷な生活を体験してきた。
タイトルは、一義的にはその極寒のシベリヤを指しているわけだが、含んでいる意味としてはその抑留生活で荒れ果てた壱岐の心の有り様であろう。

 

彼は、もう二度と戦争に関わる事はしたくないと、自衛隊への誘いも頑なに拒んできた。
そんな壱岐に目をつけ特別待遇で入社させたのが近畿商事。
いやいや、君には軍事産業の担当ではなくて服飾関係を担当してもらうよ。君の希望は了承しているよ。
しかし社長(山形勤)の目論見は、もちろん次期戦闘機の獲得商戦で壱岐の判断力、交友力が有益だと見込んでいたのだ。

 

すべてのことに沈着冷静に対応する壱岐
無表情である。人間の感情を殺してしまったかのような冷たささえも感じさせて、仲代が魅せてくれる。
彼の無二の親友が、今は自衛隊幹部になっている川又(丹波哲郎)。
彼は、終戦直前に壱岐によって命を助けられた過去を持っていた。

 

次期戦闘機の売り込みは、近畿商事の推すラッキードか、それとも東京商事の推すグラマンか。
それぞれの会社が政府要人を接待し、賄賂を掴ませ、自分側に手名づけようとする。
それこそ7万円の料理接待どころではないことが、こちらも負けじとおこなわれている。

 

物語の軸となっているのが、壱岐の心の変化。
あれほど軍事産業を忌避していたのに、いつしか次期戦闘機の受注にのめり込んでいくのである。
根っからの軍人気質が壱岐には残っていたのだ。
戦争によってもたらされた壱岐の中の不毛地帯は、その戦争の武器である戦闘機の争奪戦でしか宥められなかったのだ。
それは彼を心配する妻(八千草薫)や娘(秋吉久美子)にも止められなかったのだ。

 

そんな争奪戦には対立する商社、自己の利益目的で肩入れする政治家が入り乱れる。
グラント社に肩入れしている官房長官小沢栄太郎)がまたあくどい。
敵対する人物を脅し、すかし、懐柔し、策を弄する。
対抗する壱岐が頼りにした経済企画庁長官(大滝秀二)もまた一筋縄ではいかない。
金はいくらまで用意できるかね?・・・

どちらもどちら、なのである。

 

もちろん極端に戯画化はされているのだろう。
しかし、40年以上経った現在、実際に起こっている政府高官の接待問題などを見ると、これに近いことは今もおこなわれているのだろうなと思ってしまう。

 

争奪戦は大詰めを迎えるのだが、その犠牲者も出る。
失脚した川又は壱岐との酒を酌み交わし帰っていく。その別れの時に川又は哀しい笑みを浮かべながら敬礼をする。
この場面の丹波哲郎は好かった。その後に起きることを予感させる男の切なさであった。

 

こうして映画は次期戦闘機の選択という大きな利害に群がる人々を描いていた。
しかし、この映画を作ったときは、原作はまだ連載中だったとのこと。

 

この事件が終わり近畿商事を辞めた主人公の壱岐は、次には自動車や石油産業への介入していく物語となっていたとのこと(未読)。
山崎豊子の小説は、単にロッキード事件を描いたものではなく、心に不毛地帯を抱えた壱岐という人物の生き様のドラマだったのだ。

見応えのある映画だった。