2004年 ドイツ 155分
監督:オリバー・ヒルシュゲーブル
出演:ブルーノ・ガンツ、 アレクサンドラ・マリア・ララ
実録ドラマ。 ★★★☆
同名の研究書があるようだ。それに、この映画の語り手ともいうべき、ヒトラーの秘書を務めたユンゲの回想録「私はヒトラーの秘書だった」を基に作られている。
かなり史実に近い描かれ方なのだろう。
最期の12日間ということなので、すでに各地での戦闘でドイツ軍は敗走をつづけている。
いつベルリンに連合軍が侵攻してくるか判らない情勢となっている。
それなのに、既に正気を失っているように癇癪を爆発させるヒトラーは、援軍がくるんだっ!とわめき散らす。
そんなヒトラーの言葉にはもはや真実がないことを知りながら、高官たちは反論もできない、忠告もできない。
こんな情勢に陥っても、まだ、ヒトラーの言葉は絶対的なのだ。
ものすごい狂信ぶりである。
まるでオカルト的なある種の新興宗教の教祖のようである。
ブルーノ・ガンツ扮するヒトラーが実にそれらしい(と言って、もちろん本人を知っているわけではないが 笑)。
我々が思い描くヒトラー像を生々しく見せてくれる。
ヒトラーはパーキンソン病だったとの噂もあるが、映画では片手の指が不随意に激しく動いていた。
リアリティがあるなあ。
映画の中盤、ああ、この場面は・・・。
そうなのだ、You tubeで抱腹絶倒だった「総統閣下はお怒りのようです」シリーズの元映像が出る。
そうか、「スターリン」の名前が出て、「アンポンタン」とか「ば~か!」と総統閣下が言っていたのは、こういう場面での当て振りだったのか。
呆気にとられるのは、ベルリンはすでに陥落寸前なのにいまだに赤狩りを続けている共産主義者がいたりすること。
それに半ば廃墟と化した市街でユダヤ人の静粛を続ける軍人もいる。
どこまで洗脳されてしまっているのだ。
あのゲッベルスは公然と言う、「こんな事態になったのもベルリン市民自身が選んだ運命だ。我々は国民に強制はしていない。彼等が我々に委ねたのだ。自業自得なのだ。」
第一次大戦で敗戦国となったドイツ国民はナチスを、ヒトラーをどんな気持ちで必要としたのだろうか。
その狂信ぶりを私たちは他人事として映画を観ているわけだが、一歩間違えれば私たちもヒトラーを生んでしまうかもしれない。
そんな熱に浮かされるような危うさはいつの時代にも、どこの国にもあるに違いない。
ついにドイツ軍司令部近くにまで連合軍の砲撃がおよんでくる。
その極限状態の中で、ヒトラーは長年の愛人だったエヴァと結婚をする。
エヴァもまた狂気にとらわれていたのだろうか、それとも究極の愛があったのだろうか。
そして、絶対に私の屍体を敵に渡すな、と言い残してヒトラーはエヴァと二人で自決する。
側近の中ではゲッペルスが印象的だった。
宣伝担当大臣としてナチスのプロパガンダを広めた一番の人物。
ヒトラーには重用されており、最期まで(陰湿に)支えていく。
演じた俳優も骨張って眼がぎょろっとしていて、なんだか嫌~な感じの人物像になっていた。
そんなゲッペルスにも6人もの子供がいた。
敗戦を覚悟したゲッペルスは、奥さんが子どもたちを毒殺したあとに、夫妻で自決していく。
他にも、ヒトラーの死後もなお忠誠を誓って自決するものが少なからずいた。
ことさらにヒトラーを糾弾したりとか、反戦を唱えたりとか、そんなことは一切ない作品だった。
ただドラマを映している。
それだけに実録映画の持つ重さが確かに感じられるものとなっていた。