2015年 ドイツ 116分
監督:ダービド・ブネント
出演:オリバー・マスッチ
ブラック・コメディ。 ★★★☆
自殺したはずのヒトラーが現代に生きていたら、どうなるか?
これはなかなかに面白い空想である。
ヒトラーの思想や行動は、歴史的にみても誤りだったとする認識を疑う人は、まずいないだろう。
しかし、それは本当?
この映画、理由もなにもなしに、とにかく2014年のベルリンにヒトラーがタイムスリップして甦るところから始まる。
戦局がどうなっているかを気にするヒトラー。尊大な総統ヒトラー。
一方で、周りの人たちはヒトラーのコスプレ野郎と思って彼に接するのだから、当然ちぐはぐなやりとりとなる。
お約束の面白さが始まる。
だが、ヒトラーは賢かったのだ。
新聞の日付を見たりして、自分が違う時代に来てしまったことを察知する。
すると彼は、自分をヒトラーのモノマネ芸人と勘違いして面白がる人たちを利用しようと考える。
う~ん、たしかに一筋縄ではいかない人物だ。
そんなことを想像だにしない(そりゃそうだ)人たちは、ヒトラーが生きていたらいかにも言いそうな意見に、意外に真理があるように思ってしまったりする。
不安な時代には、衆愚は自我を棄てて独裁的な指導者を求めるのか?
それって、いつか来た道・・・、いつか来たとても危ない道・・・じゃないのかい。
フェイスブックにときどきアップされる「総統はお怒りのようです」というシリーズものの動画がある。
映画「ヒトラー 最期の12日間」の場面に合わせて、時事ネタの偽音声で笑わせてくれるもの。
(たとえば、総統はモリトモ学園の暴露記事にお怒りのようです、といったタイトルで、ヒトラーが週間○春を罵ったりする。このシリーズは面白いですよ。)
本作では、そのフェイスブックのパロディをやってくれていた。
パロディのパロディで、これは抱腹絶倒もの。嬉しくなってくる。
もちろん、この映画は政治的なものではない。
いかに視聴率を獲得するかということに血道を上げるTV業界を風刺してもいる。
ヒトラーのコスプレ芸人で人気をとろうとする。
(しかし、実際のヒトラーも当時のメディアを上手く利用して国民を扇動していったのだったよなあ)
やがてヒトラーは本を出版し、大人気となる。その映画化もおこなわれる。
しかし、最後近くになって、ヒトラーを見つけてここまで人気者に仕立てたTV記者が、あんたは本物のヒトラーではないのか?と、怖れとともに尋ねはじめる。
はじめから私はヒトラー本人だといっているじゃないか。
そしてどうなったのか・・・。
ヒトラーが語ることばに、独裁者が独裁したのではない、国民が独裁者を望んで独裁されることを作り上げたのだ、という意の台詞があった。
現在のアメリカの情勢や日本の情勢を思うとき、複雑な気持ちになってしまう。
それはともかく、よくできたブラック・コメディです。
しかもこれがドイツ映画だということに、ちょっと驚きます。