あきりんの映画生活

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「オン・ザ・ハイウェイ」 (2013年) 登場人物はただ一人、会話は電話だけ

2013年 イギリス 86分
監督:スティーブン・ナイト
出演:トム・ハーディ

映るのは運転席の主人公だけ。 ★★★

 

副題は「その夜、86分」。
そのタイトル通りに、ハイウェイを走る一台の車の様子86分間が描かれている。
というか、それしか描かれない。
登場人物は、その車を運転しているアイヴァン(トム・ハーディ)、ただ一人だけ。
さて、この映画、面白いのか?

 

夜、工事現場の仕事が終わり車に乗り込むアイヴァン。
運転しながら彼はハンズフリーの状態でいくつもの電話をかける。そして電話を受ける。
その電話での会話から、少しずつ彼の置かれている状況が判ってくる。
車の中の電話での会話で、彼の物語が展開する。

 

アイヴァンには愛する妻も子供もいる。今夜は家族で一緒にサッカーの試合を観る約束だった。
そして明日は、彼が全ての指揮を執るコンクリート流し込みの大工事が予定されていた。
それなのに、彼はそれらのすべてを投げ捨ててある場所に向かって車を走らせている。
一体彼はどこに向かおうとしてるのか?

 

実は、アイヴァンはただ一度の出張中での不倫行為で、相手のベッサンを妊娠させてしまっていたのだ。
そして出産予定日までは日があった今夜、ベッサンから破水したとの連絡が入ったのだ。
アイヴァンはこの責任を取らなければならないと、家族との約束も大事な仕事も放り出して、ベッサンの入院する病院へ向かっているのだ。

 

これはもう脚本勝負の映画である。
脚本はスティーブン・ナイト監督自身で、彼は「イースタン・プロミス」の脚本も書いている。
その脚本を支えるのはトム・ハーディの表情の演技である。
脚本、トム・ハーディ、そのどちらもが巧みで、映画として上手くいっていた。

 

ベネッサからは、赤ちゃんの様子が大変なの、いつ頃来てくれるの、と電話が入る。
妻には、今夜は帰れない、実は不倫で妊娠させた子が生まれそうなのだ、と告白する。
妻からは錯乱した怒りの電話が入る(そりゃ、そうだろ)。
会社の部下には、明日俺はいないからお前が指揮を執ってくれと頼む。
そんなぁ、俺じゃ無理っすよ。いや、お前ならできる、頑張ってくれ。

 

アイヴァンが責任感の強い善人なのか、それとも、ただ一時の義務感に突き動かされているだけなのか、単純には決められないようになっている。
観ている者にも簡単には彼に肩入れはできないようになっている。

 

ベネッサのもとに駆けつけようとしているのに、彼女に向かって、愛してはいない、ただ責任を取るだけだ、と言い放つ。
裏切っておきながら妻には、不倫相手を愛してはいない、明日ゆっくり話そう、と、勝手に打開を求めている。

 

対向車のライトが流れすぎ、社内の電話の会話は刻一刻と深刻さを増していく。
ついには、アイヴァンは、妻からは、もうあなたの家はないと、離婚を宣言される。
会社からはクビを宣告される。
アイヴァンが車を運転している間に、彼の人生は大きく変わってしまったのだ。
さあ、この車がたどり着く先のアイヴァンの人生はどうなるのだろう?

 

最後近く、父の浮気を知っても電話で励ます息子が健気。好い息子だ。
ちなみに息子役は、声だけの出演だが、トム・ホランドとのこと。へぇ~。
映画の最後、電話口から赤ちゃんの泣き声が聞こえる。

 

ものすごく実験的な映画と言える。
退屈することはなく、いったいこの会話劇はどうなるのだ?と観る人をつなぎ止める。
でも、やっぱり観る人を選ぶ映画かな・・・?