2011年 アメリカ 138分
監督:クリント・イーストウッド
出演:レオナルド・ディカプリオ、 アーミー・ハマー、 ナオミ・ワッツ
FBI初代長官の伝記物。 ★★★
24歳の若さで共産主義過激派を国外追放する特別捜査チームの責任者に抜擢されたJ・エドガー・フーバー(レオナルド・デカプリオ)。
彼はその後FBIを設立して、48年間にわたり長官を務めた。
48年間! FBIといえばフーバー長官、となるわけだ。
イーストウッド監督が、そんな彼の生涯を資料で明らかになっていることをもとに映画化した作品。
時折り、FBIとCIAの違いが判らなくなるのだが、簡単に言えば、FBIは州を超えて捜査権を持つアメリカ国内の連邦警察。
FBIが設立されるまでは、アメリカでは州法があり、州を越えての警察活動はできなかったのだ。
日本で言えば、東京で犯罪を犯しても横浜に逃げ込んでしまえば逮捕されなかった?
合衆国って、州の集まりだから法律も州によって違うようだ。
映画は、老いを自覚したエドガー(レオナルド・ディカプリオ)が回顧録を口述するという設定になっている。
映像は現在と、回顧場面が交互に映し出され、ディカプリオもハマーもナオミ・ワッツも、若い日の姿と老いてからの姿を演じていた。
ナオミ・ワッツがどちらの時代も美しいのには感心した。
エドガーはとにかく科学的捜査による証拠主義だった。
指紋がまだ一顧だにされていなかった時代に、彼はアメリカ各州の犯罪者の指紋を登録管理しようとしている。すごいね。
そうやって捜査の近代化と権力の集中を進めていく。
ついには設立したFBIを、犯罪撲滅のための巨大組織へと発展させていく。
もちろん罪を憎む正義感が彼を突き動かしていたわけだが、そのためには時に強引なこともおこない、敵も多かったようだ。
エドガーの在任は48年間。日本で言えば大正13年から昭和47年までにあたる。長い!
しかも彼は大統領から任命される官吏にすぎないのだが、なんと8人の大統領から任命され続けているのだ。
これ、異常じゃね? これだけ長官の座に君臨できたのにはなにか恐ろしい理由があったのじゃね?
そうなのだ、彼が亡くなるまでFBI長官の座に居ることが出来たのは、盗聴、盗撮などによって時の権力者の弱みを握っていたためなのだ。
極秘ファイルとしてとにかくすごい情報を集めていたようだ(政治的ガーシーかよ 笑)。
ケネディ大統領の兄の情事まで盗聴している。うへぇ。
(この極秘ファイルは、彼の死後、処分を託されたヘレンがすべて焼却したために、内容は一切明らかになっていない(ことになっている))。
そんな彼だったから、職場でも、いや人生そのものでも孤独だったのだろう。
彼が心を開いたのは、生涯彼に色恋抜きで尽くしてくれた秘書のヘレン(ナオミ・ワッツ)と、同じゲイの性癖を持つクライド(アーミー・ハマー)だけ。
そしてエドガーは典型的なマザコンでもあった。保守的かつ支配的な母親(ジュディ・デンチ)の影響が影を落としている。
2時間越えの映画だが、イーストウッド監督はエピソードを巧みに挟んでくる。
エドガーが実は人種差別主義者で、あのキング牧師がノーベル平和賞を受賞する際には、匿名で、受賞を辞退しないと浮気の証拠を公にするぞなどという脅迫状を送ったりしている。
実にエドガーの人間的な嫌な面も淡々と映し出す。
彼がテロや暴動、凶悪犯罪に対処する広域かつ強力な警察組織を作った功績には大きいものがあるのは確か。
しかし一方で目的の為には手段を選ばず、権力者が官僚を利用するのが当たり前なのに、逆に官僚が大統領や司法長官を牛耳っていたのだから、その策士ぶりたるや尋常ではなかったわけだ。
最後まで判らなかったのが、生涯忠実に尽くしてくれたヘレンとの仲。
何故、彼女はあんなにまでエドガーにつくしたのだろうか、
ヘレンにとってエドガーは何だったのだろうか?
FBIを作った鉄の男が、実はマザコンでバイセクシュアルという弱さを抱えた人間だったという姿を描いて、さすがにイーストウッド監督だった。
この映画では実在の権力者を描いたイーストウッド監督は、この後は市井の人たちの実録ものを撮るようになっていきます。