あきりんの映画生活

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「ホテルローヤル」 (2020年) ラブ・ホテルを求める人たちは

2020年 日本 104分 
監督:武政晴
出演:波瑠、 松山ケンイチ

ラブ・ホテルの人間ドラマ。 ★★☆

 

原作は直木賞を受賞した桜木紫乃の同名小説。
親の仕事を引き継いだ主人公の人間的な成長ドラマという面と、ラブ・ホテルにやってくる人たちのオムニバス風のドラマが、ミックスされている小説だった。
だから、これをどういう風にひとつの映画に仕上げたのかと思っていた。

 

舞台は北海道、釧路湿原が窓から見える場所に建つラブホテル、ホテルローヤル
美大受験に失敗したために、気乗りがしないままに実家のホテルの仕事を手伝っている雅代(波瑠)。
そこにはいろいろな理由でラブ・ホテルを必要とする人たちがやってくる。
その人たちの人生を垣間見ることになる雅代。

 

この映画の冒頭には、廃業して朽ち始めているホテル・ローヤルが映る。
そしてそこへ忍び込んでヌード写真を撮ろうとするカップルが登場する。
映画はそこから忙しく営業していた頃のホテルの日々を映す場面へと遡っていく。
原作小説もこの構成となっていて、ホテル・ローヤルが廃業するまでの日々が描かれていた。

 

父(安田顕)から、お前にはこのホテルがある、と言われて、ラブホの娘と幼い頃から馬鹿にされるのが嫌だったと語る雅代。
そりゃそうだろうなあ。
実際にラブホの経営者の子どもだった誰かが、そのことをひた隠しにしてきた、と言っていた。
原作者の桜木紫乃は、自分の経験を元にこの小説を書いたようだ。

 

そんな雅代だったが、母親が若い男と駆け落ちをしてしまい、父が病に倒れ、いつしかラブホの経営者となっていく。
寡黙な雅代役を、無表情で演技する波瑠はよく合っていた。
これがハイテンションの娘では漫画になってしまうところだろう。

 

そんな雅代の物語と平行して描かれる逸話は・・・。
自慢の息子だったはずが、ある日、暴力団組員として警察に逮捕されたニュースを見る母親(実はホテルの従業員のおばさんなのだが)。
束縛された家での生活からつかの間解放されるために訪れる八百屋の夫婦。
妻に裏切られた高校教師と両親に捨てられた教え子の女子高生の二人連れ。
などなど、どの逸話も人生の機微をうかがわせる。

 

それにしても、客の会話が従業員の仕事場に聞こえるようになっていたのには驚いた。
盗聴まがいだけれど、これ、いいの? 

 

ラブホテルを利用するものにとっては、そこに居る時間は非日常。
しかし波瑠たちなどのそこの従業員にとっては、それは日常。
このギャップが物語を産んでいた。
大人の玩具の販売営業マンの宮川(松山ケンイチ)の台詞は、「男も女も体を使って遊ばなければならないことがある、私はその手伝いをしている。」
なるほど、そういうものなのだな。

 

最後の逸話は、雅代のその宮川に対する恋心の発露。
そしてエンディングには、若かったころの両親がホテル・ローヤルをはじめた頃の回想場面が付いていた。
このまとめ方はなかなかに好かった。

 

うわべはラブホという題材設定で話題になりそうなところだが、しっかりと人生ドラマになっていた。
俳優陣も頑張っていた。しかし、しかしである、映画自体はどうしても単調な感が否めなかった。
各逸話が上手く重なっていないのだ。細切れのオムニバスになっている。
映画全体としての盛り上がり、あるいは起伏が感じられないのだ。

 

もちろん原作はオムニバス風の描き方になっているのだが、映画では小説とは違う見せ方をしなければいけないだろう。
脚本にもう一考の余地ありと思えてしまった。残念。