2007年 ロシア 157分
監督:アンドレイ・ズビャギンツェフ
出演:コンスタンチン・ラヴロネンコ、 マリア・ボネヴィー
すれ違う思いの夫婦の物語。 ★★★☆
アンドレイ・ズビャギンツェフ監督のデビュー作「父、帰る」は、寡黙な印象の作品だったが、その奥に強い意思のようなものを感じさせるものだった。
第2作に当たるこの作品もとても寡黙だった。
冒頭近く、緩やかにうねってつづく平原の中の田舎道を一台の車が走ってくる。
この場面からしてため息が出るような美しさである。
この感じは、そう、タルコフスキーだ。まったくあの感じである。
すると、タルコフスキーにどこまで似ていて、どこからが違うズビャギンツェフ監督の作品となっているか、だな。
登場人物はわずかである。二人の子供をつれて、夏を過ごすために父が残した田舎の家を訪れた夫婦。
彼ら4人の美しい風景の中での静かな時間が描かれる。
しかしお互いを気遣っているように見える夫婦の間には、どこか感情が行き違っているような雰囲気がある。
家族の絆を取り戻そうと夫は努力している。ピクニックに出かけたりもする。
子どもたちといっしょに和やかに過ごしているように見える妻。
ワイエスの絵画を思わせるような田舎の風景。美しく、しかしどこか寂しさを感じさせるような絵柄なのだ。
そんな折りに妻が言う、「妊娠したの、でもあなたの子じゃないの」
思いがけない妻の告白で、夫婦の関係は決定的に破綻する。
とりとめもなく続けられる二人の話し合い、歩み寄ることができない二人はいつまでも寄り添えない。
(以下、物語の核心に触れます)
大丈夫だからといわれて受けた中絶手術で妻は死んでしまう。
慟哭する夫。彼は妻の浮気相手と見きわめた相手に仕返しをしに行く。
しかし、そこで夫は妻の妊娠の真相を聞かされるのだ。
そこからは30分にも及ぶ回想シーンとなる。
浮気相手と思っていた男はただの友人で、妻はその友人に向かって「お腹の子は紛うことなき夫の子供よ」と言っていたのだ。
そして妻は付け加えたのだ、「でも夫だけの子供ではない」と。
はて、この言葉はなにを意味している?
妻はなぜあなたの子ではないと嘘を言ったのか。
別のときに、妻は「彼は私たちを自分の為だけに愛している。物扱いよ。」と言っていた。
妻には怖いほどの孤独感があったのだろう。
それにしても、ヴェラが妊娠診断書の裏に書いたのはどんなことだったのだろう?
最後までそれは明かされなかったようだが・・・。
うわべの物語は、妻の妊娠の真相を探るということになるのだが、この映画の眼目は謎解きでもなければ、事態の解決でもない。
この映画は物語の展開よりもその物語によって伝わってくる感情の澱みを味わう作品だった。
そうなのだ、大変に気持ちの底に澱んでいくものを残す作品だったのだ。
それは決してすっきりするようなものではないのだが、いつまでも気持ちを捉えてはなさない余韻であった。