1979年 ソ連 163分
監督:アンドレイ・タルコフスキー
哲学的な映像叙事詩。 ★★★☆
タルコフスキー監督の、有名な「惑星ソラリス」と「ノスタルジア」のちょうど中間辺りで撮られた作品。
2時間40分あまりという長尺である。
なぜか、ゾーンと呼ばれる謎の地域が出現し、そこに探査にむかった軍隊が戻らなかったことから、そこは立入禁止区域となっている。
しかし、そのゾーンの奥にはどんな望みも叶えられる部屋があるという。
で、制止を振り切ってでもぞのゾーンに行きたいという人がおり、そこへ非合法に案内する”ストーカー”と呼ばれる案内人もいる。
SF的な設定なのだが、映画自体はとても落ちついて沈んでいる。
タルコフスキーらしい静かさと美しさが画面を満たしている。ゆったりとしている。
とにかく観ている間中、このゆったりとした映像はいつまで続くのだ?と思ってしまうほど。
しかし、その冗長とすら思えるゆったり感は、一度はまってしまうと妙に心地よい。
冒頭はストーカー親子が寝ている貧しそうな室内風景。
セピア色で撮られていて、不思議な緊張感がある。
そしてストーカーは、もうゾーンへ行くのは止めてくれと言う妻の懇願を哀しく振り切って、自称作家と、自称物理学の教授を、例の部屋へ連れていくためにゾーンへむかう。
軍隊の厳しい監視をくぐり抜け、銃の狙撃からも逃げ、ゲートを強行突破してゾーンへ入り込む。
錆だらけの古いトロッコのような台車で3人はゾーンの中を行く。
こう書くと、SFアクション映画のように思われてしまうかもしれないが、タルコフスキーの映画ではそんなことは起こりえない。
あるのは、荒れてくすんだ建物であったり、壊れた機械が雨ざらしで放置されているような野原であったりする。
水のイメージはいたるところで出てくる。
「惑星ソラリス」がそもそも不思議な水の惑星であったし、「ノスタルジア」でも屋根が壊れた廃墟に雨が降りそそいでいた。
ゾーンの中の川や池の描写、水が入り込んでいる古い建物の描写。
人の心をぐっしょりと濡らしてくる水である。
3人は例の部屋へたどりつくために、危険な野原を彷徨い、命を奪われるかもしれないトンネルを抜ける。
もしかすれば、ゾーンというのは(ソラリスのように)一つの意志を持った地域なのかもしれないとも思わせる。
たどりついた望みの叶う部屋の前で、3人は形而上的な会話を交わす。
3人はそれぞれ何を望んでここへ来たのか。
そして部屋はいったい何をもたらすところだったのか・・・。
映画の最後、ストーカーの娘が映し出される。
足が不自由なその娘は髪を布で被っており、その横顔を映した画面はまるで中性の宗教画のような神秘さを漂わせていた。
いったい、この物語はなんだったのだ?と、あらためて問いかけたくなるような美しい画面で映画は終わっていきます。
さすが、タルコフスキー。