2022年 韓国 138分
監督:パク・チャヌク
出演:パク・ヘイル、 タン・ウェイ
愛を描くサスペンスもの。 ★★★☆
夫殺人の容疑をかけられた美しい人妻、そしてそれを取り調べる刑事。
この映画は、この相対する立場の二人の禁断のプラトニックな愛の物語。
登山をしていた一人の男性が山頂から転落死する。彼は独りで登山していた? 他には人はいなかったのか?
これを事故ではなく殺人ではないかと疑った刑事ヘジュン(パク・ヘイル)は、被害者の妻ソレ(タン・ウェイ)を疑う。
しかし彼女にはアリバイがあったのだ。
中国から韓国に流れてきた中国人のソレは、どうも経済的な理由での結婚をしていたようなのだ。・・・そこに愛はないんか?
韓国語が堪能ではないソレは、複雑な会話になるとスマホの翻訳アプリを使う。
意思疎通をするときにワンクッションが入るわけだ。
このもどかしいような微妙な間が、伝えたい感情の起伏に陰影を付けていた。
一方の真面目な刑事ヘジュンは、過去の未解決事件にとらわれて不眠症になっている。
それぞれに人には判ってもらえないような感情を心の奥に抱えている。
取り調べを進めるうちに、いつしかヘジュンはソレに惹かれていく。
彼女の方もまたヘジュンに特別な感情を抱くようになっていく。
しかし二人は捜査刑事とその容疑者。そんな恋物語が許される仲ではない。
それぞれが隠す禁断の思いがすすんでいく。
ソレ役のタン・ウェイは、あの衝撃的だったアン・リー監督の「ラスト・コーション」で体当たり演技のヒロイン役を演じた女優さん。
ひたむきさを伝えてくる目の表情が印象的だった。
やがて捜査の糸口が見つかり、事件は解決したかに見える。第一の事件が終わり、物語も終わっていくのかと思っていた。
違った。第二章があったのだ。
第一章がヘジュンが恋に落ちる物語だとすれば、第二章はソレが愛を確かめる物語だった。
この映画の惹き文句は「愛していると決して言わないラブストーリー」とのこと。
なるほど、上手いことを言ったものだ。
ポスターの場面、手錠に繋がれたソレとヘジュンが並んでパトカーに乗っている。
視線を交わさない二人だが、相手を求め合っていることがひしひしと伝わってくる。
(以下、ネタバレ)
認知症のお婆さんを利用したアリバイ作りは、なるほど、そんなことまでしていたのか、と感心。
また、スチールグローブを使ってナイフを振りまわす容疑者との格闘場面はリアル感があった。
事件が解決してしまえば、それはヘジュンの中で終わってしまうことになる。
未解決事件があるかぎり、ヘジュンはそれを忘れられないし不眠のままだ。
ソレが最後に”別れる決心”でとった行為は、事件をいつまでも未解決のままにしておきたかったためのものだろう。
それによって、二人の関係はいつまでも未解決になってしまったのだろう。
どこまでも折れ曲がりたわんでいく愛の形が切ない物語だった。