あきりんの映画生活

映画鑑賞だけのブログです。★★★★が満点評価ですが、ときに思い入れ加算があります。約2000本の映画について載せていますので、お目当ての作品を検索で探してください。監督名、主演俳優名でも検索できます。

「友だちのうちはどこ?」 (1987年) 遊びに行くんじゃないよ、ノートを返しに行くんだよ

1987年 イラン 83分 
監督:アッバス・キアロスタミ

素朴でひたむきな少年のお話。 ★★★★

 

小学生を主人公にした(有名な)イラン映画
間違って持ち帰ってしまった友だちのノートを返そうと、遠い隣村に住む彼の家を訪ねていく、ただそれだけの話。
しかしその素朴な行為が、次第に何かの寓話のようにも思えてくる深みを持っていた。

 

アハマッドの隣の席のモハマッドは、宿題をノートではなく紙に書いてきたため先生から叱られる。
そして、今度ノートを忘れてきたら退学だ、と言われてしまう。
しかしその日、アハマッドは間違ってモハマッドのノートを自分の家に持ち帰ってしまったのだ。
どうしよう、モハマッドにこのノートを返さないと彼は退学になってしまう。今日中に返さなくては・・・。

 

イランの田舎の光景が実に自然に映されている。土作りの家、狭く曲がりくねった道。
そしてそこでの暮らしぶり。
子どもは否応なしに家の手伝いをさせられ、年長者には絶対的に敬わなければならない。
そうか、こういう風土で、こういう生活をしているのか。

 

イランでは政府による言論統制が厳しく、少しでも政治的な色合いがある映画は撮ることができなかったようだ。
そのために子どもを主人公にした映画がたくさん撮られたとのこと。
優れたものも多く、「運動靴と赤い金魚」もとても印象深い映画だった。

 

さて。
モハマッドの家を訪ねて隣村まで出かけたアハマッドだが、友だちの家がどこなのか、判らない。
いろいろな人に聞くのだが、知らないと言われたり、別の家を教えられたり(同じ名字の家が沢山あるようなのだ)。
モハマッドなら5分前に、なんと、アハマッドの村に出かけたよ、とも聞かされる。
急いで自分の村に戻るアハマッド。でも友だちはどこにもいない。また隣村へ・・・。

 

窓から顔を出したおじいさんが、モハマッドの家に連れて行ってあげよう、と道案内をしてくれる。
しかし、そのおじいさんはとても歩くのが遅いのだ。日が暮れてきてしまうぞ。
おまけに案内してくれた家はまったく違っていたのだ。

 

こうして焦れば焦るほど迷路が複雑になっていくような、不条理にも思える彷徨いが続く。
いつまでも目的の場所にたどり着けない必死の彷徨いを観ていると、まるでF・ カフカの小説のようだな、と思えてきたりもする。

 

夜、むなしく家に戻ってきているアハマッド。
彼が奥の部屋で宿題を始めると、急に窓が強い風で開く。庭の光景が眼前に広がる。
この場面には驚き、そして感嘆した。
なにか神秘的なものを感じさせる展開だった。

 

(以下、最後のネタバレ)

 

そして次の日、学校。授業が始まる。先生が宿題のチェックを始める。
結局ノートを返すことができなかったぞ。モハマッドはどうなるんだ? ハラハラしながら観ていた。
すると、・・・好かったね。アハマッド、ちゃんとやるじゃん。

 

事件とも言えないような些細な出来事を追っているだけなのだが、主人公の少年のひたむきさがじんじんと伝わってくる映画だった。