2021年 91分 アメリカ
監督:マイケル・サルノスキ
出演:ニコラス・ケイジ
風変わりな人間ドラマ。 ★★
オレゴンの山奥で、ロブ(ニコラス・ケイジ)は一人で山小屋に住んでいた。
髪はぼうぼう、ひげも伸び放題。世捨て人のような生活で、相棒は地中のトリュフを探してくれる忠実な豚だけ。
掘り起こしたトリュフを毎週木曜日にやって来るトリュフ買い付け人のアミールに売って生計を立てている。交流があるのはこのアミールだけ。
画面は一貫して暗く、色彩にも乏しい。閉塞感を感じさせる作りとなっている。
そんな生活の中、ロブは夜中にやってきた侵入者に殴られて、大事なトリュフ豚を盗まれる。
おのれ、俺の豚を返せっ!
とここまでの物語設定であれば、この後の展開としては盗まれた豚を取り戻すニコ・ケイのアクション・リベンジが想像できる。
ただの世捨て人だと思っていたら、実はとんでもない戦闘能力があって・・・というお約束の展開、か?。
実際、ポスターの引き文句も「慟哭のリベンジスリラー」と、そういったものをにおわせるものになっている。
しかし、今回のニコラス・ケイジは違ったのである。どこまでも陰鬱で耐える人なのである。
隠されていた能力はまったく別のものだった・・・。あれ?
ロブはアミールに手伝わせて豚盗人を探そうとする。
怪しげな一室でおこなわれているバイオレンス・ショーで、相手に無抵抗に殴られて資金を稼いだりもする。
顔面血だらけのままでロブはブタを盗んだ若者二人を探し当てる。
豚は盗みを依頼してきた人にもう渡してしまったよ。そうか・・・。
さあ、ここでロブは何もしないのである。若者二人を責めることもしない、代償を求めることもしない。
ロブはただその事実経過を受け入れていく。
そう、彼は罪を犯した他者を責めないのである。これではまるで聖者のようではないか・・・。
ロブは有名レストランのオーナー・シェフに会いに行ったりする。
彼に再会した人は皆驚く。おお、あなたがどうしてここに?
じつはロブは伝説的な一流の腕を持ったシェフだったのだ。今をときめくそのオーナー・シェフはロブが破門したこともある弟子だったのだ。
こうして、顔面の傷をそのままにして、ロブはパンと赤ワインを手にかつての弟子たちを訪ねて歩く。
殴られてもそれを受け入れ、他人の罪を問わない。
こうしたロブの姿にキリストを重ね合わせる解釈の記事もあった。なるほど。そういう見方もできるのか。
豚を盗むように画策したのは、トリュフ売買を手広くしているアミールの父だった。
そのアミール父子は母親の自殺未遂をきっかけに親子関係が破綻していたのだが、彼らにロブは思い出の料理を作る。
おお、この味だっ!
俺は一度作った料理は忘れない、誰をどんな風にもてなしたのかも忘れない。
天才料理人て、どれだけすごいんだ。
ロブが愛していた豚はどうなったのか。
そして豚の運命を知ったロブはどうしたのか。
これはニコラス・ケイジの出演100本目の映画になるとのこと。
そしてこの映画の眼目は、豚盗難のサスペンスではなく、謎めいていたロブの過去が明らかになっていき、その生き様が徐々に浮かび上がってくるというサスペンスだった。
いつものニコ・ケイ映画とは違って、私にはあまりにも禁欲的で閉塞感のある作品だった。
最後にロブは、豚はいなくても俺はトリュフを見つけられる、ただあの豚を愛していたんだ、と言う。
・・・そうだったのか。
最後までカタルシスはないままで、陰鬱な気分のままで見終わった作品だった。