あきりんの映画生活

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「ウィンストン・チャーチル」 (2017年) 徹底抗戦だ、これがそのVサインだっ

2017年 125分 イギリス 
監督:ジョー・ライト
出演:ゲイリー・オールドマン、 クリスティン・スコット・トーマス、 リリー・ジェームズ

実録伝記もの。 ★★★☆

 

第二次世界大戦時のイギリス首相ウィンストン・チャーチルゲイリー・オールドマン)を描いた実録もの。
副題は「ヒトラーから世界を救った男」。

 

映画は、ヒトラーの侵攻が始まりチェンバレンが首相を退任したところから始まる。
そしてチャーチルが首相に就任し、あのダンケルクの戦いまでの4週間に絞って描かれている。
へえ、たったこれだけの時期のことしか描かないのか、とはじめは思ったのだが、物語時間を限ることによってチャーチル人間性をくっきりと捉えることに成功していた。
まったく緩むことがなかった。

 

当時のヨーロッパ戦線の状況はすさまじいものだったのだ(思っていた以上だった)。
ナチスドイツにベルギーやポーランドは呆気なく占領され、フランスも陥落寸前。
イギリス本土にまで侵略の脅威が迫っていたのだ。
どうする、このままでは我が大英帝国も危ういぞ。本当にイギリス本土での防衛戦になるぞ。

 

そんな情勢の中でイギリス政府も大揺れに揺れる。
このままではイギリスは滅ぼされてしまう。今のうちにイギリスの主権保障の元にヒトラーと和平交渉をしようという意見も多くなってくる。
しかしチャーチルは頑として演説する、徹底抗戦あるのみ!

 

世界的な荒波のなかで偉業を成し遂げた人物というのは、やはり並の神経の持ち主ではないということを、あらためて感じた。
このチャーチルという人物、尊大そのものではないか。
おまけに怒りっぽいし、他の者を見下しているし、自分勝手。
まあ、周りを気にしていては信念は貫き通せなかったのかもしれないのだが。

 

チャーチルは弁舌の達人だったようだ。
諸君はバッキンガム宮殿に鍵十字の旗がひるがえってもいいのか?
たしかにこれはイギリス人にしてみたら耐えがたい光景だろうな。こういうイメージを想起させて奮い立たせるところが巧みだなあ。

 

要所要所でチャーチルは演説原稿や書簡を秘書(リリー・ジェームズ)にタイプさせる。
この機械的でリズミカルなタイプライターの音が好いアクセントになっていた。
リリー・ジェームズも可愛らしかったしね。

 

中盤で話題の焦点になるダンケルクの撤退戦は、クリストファー・ノーランの「ダンケルク」で描かれていた。
しかしあの撤退作戦の裏でカレー戦線の3000人を見捨てて時間稼ぎをしたことは知らなかった。
政治的決断の残酷さを浮かび上がらせていた。
一般的な倫理観からすれば疑問符だらけになるところだが、30万人の命を救うためには3000人の犠牲はやむを得ない、とすごい決断もしなければならないわけだ。
しかしそれにしても非情な決断だ。

 

チャーチルだって人の子である以上は悩むわけだ。私の徹底抗戦の考えは正しいのだろうか・・・?
ここで街に出たチャーチルが地下鉄のなかで一般市民とかわすやりとりは、おそらく史実ではないのだろうが、映画としては好い場面だった。

 

結果的に連合国がナチスドイツに勝利したから好かったものの、これでイギリス本土が焦土となっていたらチャーチルは責められたのだろうな。
そして、第二次大戦終了までつづいていたイギリスのインド支配・搾取は、ヒトラーにも通じる民族支配だったのではないか、という思いもある。

 

歴史ものはいくつもの要素が絡み合うので単純には楽しめない部分もある。
話題の「オッペンハイマー」はどうなのだろうか?
本作はアカデミー賞で主演男優賞およびメーキャップ賞を獲っています。