あきりんの映画生活

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「ナイチンゲール」 (2018年) 復讐の果てに希望はあるのか

2018年 オーストラリア 136分 
監督:ジェニファー・ケント
出演:アシュリン・フランチオージ

復讐劇。 ★★★

 

映画祭では気分を害しての退席者が多数いたと言われる問題作。
レイプ場面と暴力場面が容赦ない描写だったために、非難する人も少なからずいたとのこと。
そんな噂を聞いていたので、気の小さい私としてはおそるおそる鑑賞。

 

舞台は19世紀のオーストラリア、タスマニア島
当時、この地域を支配していたのはイギリスで、先住民のアポリジアはもちろんのこと、アイルランド人も被支配者だった。
おまけに当時のオーストラリアは流刑地だったのだ。

 

些細な罪でここに流刑されているアイルランド人のクレア(アシュリン・フランチオージ)には、ともに暮らす夫と幼子もいた。
しかし彼女を気に入ったイギリス軍将校のホーキンスは、クレアを愛人として扱っていたのだ。
差別をされるアイルランド人で、しかも罪人であるクレア達には抗する術もなかったのだ。

 

やがて彼女の夫が刑期を終えても釈放されないことにたまりかねて、クレアはホーキンスに抗議する。
すると逆上したホーキンスは夫の目の前でクレアをレイプし、さらに彼女の目の前で夫と幼子を殺してしまう。
おお、なんという惨いことを! この胸くその悪い展開で鑑賞を断念した人がいたわけだ。
(念のために書いておくと、監督は女性ですよ。すごいね。)

 

クレアは復讐を誓う。必ず夫と我が子の仇を取るわ。
ホーキンスは昇進直訴のために険しい森を越えた遠い町へ二人の部下を連れて旅立つ。
そのことを知ったクレアの復讐の旅が始まる。
もちろん道もないような深い森を横切っての旅路なので、案内人がいなくては進めない。
クレアはなけなしのお金で先住民アボリジニの若者ビリーを道案内として雇うのだ。

 

ここでは人種差別が明確に描かれている。
クレアはイギリス人から差別される側だが、それでも白人である。
先住民のアポリジニはさらに差別されており、見かけられただけで白人に殺されかねない状況なのだ。
逆に言えば、アポリジニにとってはクレアもまた侵略者であるわけだ。

 

クレアとビリーは、はじめは互いを探り合うような関係を持つ。
道案内のため、お金のため。互いに利用するための関係で、どこかに敵対心がある。そんな関係。
しかし野宿をして野生の動植物を食料とした旅を続けていくうちに、二人の間に信頼関係も生まれてくる。
この共に悲惨な立場の二人の気持ちの交流が、復讐劇という物語りを支えていく。

 

映画タイトルの「ナイチンゲール」は歌の上手いクレアのあだ名。
鳴き声の美しいナイチンゲールは夜も鳴くのだが、それは襲ってくるヘビを恐れて夜の間中、棘に胸を押し付けて目を覚ましており、その痛みのために夜通し鳴くのだという中世の言い伝えもある。
なにか悲惨なイメージもともなっている鳥である。

 

旅の途中でホーキンス達は遭遇したアポリジニの男は殺し、女性はレイプする。
もう鬼畜としか言いようのない酷い奴らなのである。
そんな奴らが追ってくるクレアに気づく。
生意気な。なに、反対に彼女をまた慰み者にしてやるだけだ。

 

困難な復讐を誓ったクレアだったが、その勇ましい気持ちとは裏腹に無力感にも襲われる。
亡くなった夫と我が子の夢を見て生きる気力も失いそうになる。
そんなクレアをアポリジニのビリーが励ます。

 

やがて町に近づいたとき、ビリーはクレアに言う、その銃を私に突きつけてください、あなたが奴隷を連れていくふりをしないと私は白人に撃ち殺されてしまいます。
なんという社会なのだ、こういう時代を人間は歩んできたのだな。

 

物語としては、クレアの決意が最後に鈍るところは不満だった。
もう少し果敢に行ってしまって欲しかったとも思うのだが、それでも重い内容の見応えある作品だった。
ベネチア映画祭で審査員特別賞を獲っています。