あきりんの映画生活

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「落下の解剖学」 (2023年) 事故、自殺、それとも他殺?

2023年 152分 フランス 
監督:ジュスティーヌ・トリエ
出演:サンドラ・ヒュー

法廷ものサスペンス。 ★★★☆

 

物語の舞台は家族以外は誰もいない雪山の山荘。
その家族は、作家として成功している妻サンドラ(サンドラ・ヒュー)、教師の仕事をしながら作家の夢を捨てきれない夫サミュエル、そして事故で視覚障害を持つ息子のダニエル。

 

そしてある日、サミュエルが転落死をする。
発見者は明暗程度しかわからないダニエル。ということは目撃者はいないということだ。
はて、これは転落事故か投身自殺か、それとも殺人か。

 

映画の冒頭は、サンドラにあこがれる作家志望の女学生が会いに来ている場面。
すると、サミュエルは上の部屋で大音量で音楽を鳴らし始めるのだ。
まるで女学生との面談を邪魔するような大音量である。これは・・・。
女学生は面談をあきらめて帰っていく。そしてそのあとにサミュエルは転落死をしたのだ。

 

当初は単なる事故かと思われていたのだが、捜査にやってきた刑事は状況にいろいろと不審な点があることに気づく。
この手すりの高さを超えて落ちるような事故が起きるのか? サミュエルの頭部についていた打撃痕はあの下の屋根にぶつかったときのもので合っているのだろうか?
・・・彼は誰かに殴られて転落したのではないか?

 

サンドラは夫殺しの疑いで起訴され、法廷での審議がおこなわれる。
さまざまな検証結果が検討され、さらに2人の知人の証言が展開されていく。
これまでのサンドラ夫妻の様子も次第に明らかになっていく。

 

作家として成功した妻は次々に本を出版している。自分の時間を謳歌している。
かたや、作家の夢を捨てきれない夫は芽が出ずに悩んでいる。どうやら家事の大半をサミュエルがしていたようなのだ。
さらに彼は、息子ダニエルが事故で視覚障害になったときの責任を感じ続けていた。
さらに、その治療費を捻出するために、街にあった自宅を売却して購入した山荘を宿泊施設にしようとした目論見も失敗してしまったのだ。

 

あなたのせいでこんな不便な山奥暮らしになったのよ。
くそっ、なんでお前ばかりが成功して俺はうまくいかないんだ・・・。

 

自分ではそんなつもりはないのだろうが、成功した妻はどこか誇らしげで夫にマウントをとっているように見える。
こりゃ夫にしてみたら不満はたまるよなあ、と思いながら観ている。
しかしこの夫もうじうじと情けない奴だな、才能がないのならすぱっと割り切れよ、と思いながら観ている(笑)。

 

裁判の証拠品として録音で示される激しい夫婦げんかの様子には息をのんでしまう。
えっ、お互いにこんなことまで言ってののしり合っていたのか・・・。そうか、夫婦仲はこんな状況だったのか。
夫婦関係は、作家としての成功の差、家事育児の不平等負担、息子の障害に対する自責、などによって崩れていったのだ。
それこそが夫婦関係の”墜落”だったわけだ。

 

152分と長尺だったが、その長さはまったく感じないで見終えた。
波瀾万丈な物語というわけではなく、ひたすらひとつの転落事故(事件?)を検証していくだけの映画。
しかし何か裏がありそうな台詞や映像が観る者に終始投げかけられる。

 

一応の裁判判決は出るもののそれが真実なのか否かは判らないことを、見終えた者は考えてしまう。
どちらとも解釈出来るのだ。もちろんそれを意図した作りとなっている。やるねえ。

 

カンヌ映画祭パルムドールを受賞、米国アカデミー賞では脚本賞を獲っています。