あきりんの映画生活

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「アンチグラビティ」 (2019年) 夢の世界が現実なのだよ

2019年 ロシア 111分 
監督:ニキータ・アルグノフ

異世界SF。 ★★★

 

事故に遭った若者が重力法則を無視したような世界で目を覚ます。
そして謎の黒い怪物が襲ってくる。
なんなのだ、この世界は? どうしてこんなことになっているんだ?

 

この世界のビジュアルが面白い。
不規則に細分された地が空中に浮遊している。そして空には同じように細分された地が傾いて浮いているのだ。
まるで重力の法則は無視されていて、それらの地は互いに細い岬のような地で繋がっている。
歩いて行けば、いつのまにか上下が逆になった地にいたりするわけだ。面白い。

 

主人公の若者は、ヤンという男が率いる集団に助けられる。
そして、ここは現実世界で昏睡状態に陥った人間の記憶で創り上げられた世界なのだと教えられる。
えっ? なんだ、それ?

 

なるほど、いわばここはいろいろな人々の記憶がつぎはぎのように繋がっている世界なのだな。
そのために景色は途切れ途切れで、重力も不安定なのか。
あのリーパーと呼ばれる怪物は、どうやら脳死した人々が創り出した怪物のようだぞ。

 

特異な設定なのだが、この映画、「マトリックス」を観ている人には、ああ、あれの亜流ね、と容易にその世界観には入っていける。
というか、プログラムとの闘いなどという設定がない分だけこちらの方が単純明快。
あまり頭を悩ませなくて済む(苦笑)。

 

天地が入り乱れる世界の風景は面白かった。
こちらも、ああ、「インセプション」の亜流ね、といわれてしまうところが辛いところか。
しかし、この映画独特の浮遊感、景色の奥行き感、などは充分に楽しむことができた。

 

さて。
ヤンは、建築家だった若者の特殊能力を使ってリーパーのいない島を造ろうと計画している。
その島へみんなでリーパーと戦いながら移住しよう。
このリーパーの映像も、動いたあとにちぎれた残像のようなものが纏わり付くところが奇妙な面白さだった。
それにしても、聖人のような指導者のヤンの本当の目的は何だろうか?

 

ここで皮肉なことは、現実では恵まれていなかった人も夢の世界では新たな能力を持って生きて(?)いること。
たとえば、この世界での武闘派の隊長は現実世界では事故で下半身を失って昏睡状態だったりするのだ。
そんな人にとっては夢から醒めない方が幸せなのか?
このあたりは「アバター」の世界観の影響を感じるものだった。

 

主人公は途中で一度昏睡から醒めたりもする。あの世界から現実へ戻って来るわけだ。
すると、現実世界でのヤンはある宗教団体の教祖だったのだ。
彼は、現実世界では生きていけない人々を救うための夢世界なのだ、と説く。
あの世界のコミュニティの人々はヤンが昏睡状態で寝かせている信者たちだったのだ。
そして若者とその恋人も再び昏睡状態に陥らされてしまい、またあの世界へ戻ってくるのだ。

 

という具合に物語もなかなかに工夫してあった。
若者が造り上げた島はどうなった? 若者と恋人はどうなった? 現実世界に戻ったのか?
美しい奇妙な世界のビジュアルと相まって楽しめた作品だった。