2016年 カナダ 96分
監督:オリバー・アセリン
出演:ポール・アーマラニ
戦時下のサスペンス。 ★★★
第二次大戦の末期。ナチスが完成させた原子爆弾をめぐるサスペンスもの。
2016年の作品だが、意図的にか、古い感じの映像にしている。
そんな画面の雰囲気とか、全体の感じがどことなく1940年代のサスペンスものを思わせる。
女スパイのシモーヌは原爆の開発に成功したドイツの科学者エミールを捕らえるためにベルリンへ潜入しようとする。
一方で身の危険を感じたエミールは国外逃亡を企て、スイス行きの夜行列車に乗りこむ。
ドイツの科学者ケーニッヒも原爆製造方法を探ろうと、憲兵と共に列車に乗りこむ。
もちろんシモーヌも一般乗客にまぎれて乗車している。
ということで物語の大部分は夜行列車の中だけ。
暗く、狭苦しい中でそれぞれの思惑や嘘の供述が交差する。
上手くだませるか? こいつの真意はなんだ? かなり話しは込み入って、ややこしい。
途中の回想場面はモノクロ映像になったりする。
ちょっとびっくりなのが、エミールの作った原爆は腕時計に仕込まれていた、というところ。
なに? 原爆ってそんなに小さくできるのか?
これで本当に爆発するのか?
そしてこの映画の一番びっくりポイントで、なおかつ一番面白かったのは、”シュレーディンガーの猫”をストーリーに組み込んでいたところ。
有名なシュレジンガーの猫だが、箱を開けるまでは生きている猫と死んでしまった猫は同時に重なりあって存在している、なんて言われても、ねえ。
理屈ではなるほどと思えても、感覚的にはそうかなあと思ってしまう。
箱の中で生きているか死んでいるかは、見えなくたってもうどちらかに決まっているだろ、と思ってしまう。
でも、蓋を開けるまではどちらかは確かめられないのだぞ、と言われればその通りなのだが・・・。
映画のクライマックス、小型原爆を積んだ列車はパリとベルリンに線路が分かれる地点にさしかかる。
そしてその行き着いた先で原爆が爆発するのだ。
線路の分岐は今はどちら行きになっている?
列車から逃げ出した主人公たちは地下の防空壕へ逃げ込む。
果たして列車は分岐ではどちらに進んだのだ? 原爆はどちらで爆発したのだ?
それぞれの都市で爆発した仮定の映像が映し出される。
もしパリで爆発していれば連合国は壊滅し、ナチスの勝利となる。
一方、ベルリンで爆発していればナチスは全滅となった戦後となるわけだ。
防空壕の中にはラジオも無線も通じない。外の世界はどうなっている?
防空壕の扉を開けてみるまでは、どちらの場合も五分五分の確立でありうるのだ・・・。
最後近くまでの重苦しいサスペンス風味は悪くなかった。
そして最後の”シュレジンガーの猫”である。
これがひと味ちがった展開を見せていて、あれれ?でもあった。
しかし、被爆国である日本人にとっては、いささか複雑な思いにもならざるを得ない題材ではある。
そのことから離れれば、ちょっと変わった戦時下スパイ・サスペンスものでした。