2009年 アメリカ 111分
監督:ニール・ブロムカンプ
社会派エイリアンもの。 ★★★☆
この作品は、去年、国際線の機内でたまたま観た。だから、なんの予備知識もなかった。
で、冒頭から、その設定の斬新さに驚かされた。
巨大な宇宙船がやってきたのが発端なのだが、その飛来地は南アフリカの上空だった。
そしてエイリアンとのファースト・コンタクトとなるのだが、それもこれまでのこの手の映画の常識を越えていた。
静止したままの宇宙船を訝しく思って、南アフリカ政府がおそるおそる偵察をおこなってみると、船内には衰弱して不衛生な大勢のエイリアンがいたのだ。
彼らは宇宙船が故障して漂流してきたのだ。つまり、エイリアン難民だったのだ。
何百万ものエイリアンは、ヨハネスブルグの“第9地区”に住まわされる。
要するに難民キャンプなわけだ。
報道番組のような画面で見せたりして、こんな設定の物語はどうなるのだと惹きつけられる。
人間愛(?)でエイリアンを保護してきたが、20年以上もそういう状態が続くと(この設定にも驚かされる。20年間もそういう状態が続いているのですよ)、言葉は通じないし、容姿は不気味だし、不衛生だし、付近の住民の不満がつのるのもわかる。
極端な状況を創り出して、問題提起しているかのようだ。
エイリアンのやってきた場所をアパルトヘイトを行っていた国に設定するところに、自分たちとは異なる者への差別と蔑視、迫害という、この作品の狙いもあるのだろう。
エイリアンたちはその容姿から「エビ」と呼ばれているのだが、明らかに侮蔑した言われ方である。
人種の違い、国籍の違いが侮蔑の理由となりうるのだが、そこに侮蔑しているという認識もないことが恐ろしい。
さらに彼らの好物がキャット・フードであるという設定は、映画を観ている私たちに苦々しく思わせるものがあるのだが、それも監督が意図しているものだろう。
撮影も、実際にあるアフリカのスラム街でおこなわれたとのこと。
現実世界では、あの街には、エイリアンではなくて人間が住んでいるのだ。
やがてエイリアンの管理者は、彼らを、スラム化した“第9地区”からより劣悪な環境の“第10地区”へ移そうとする。
ヴィカス(シャルト・コプリー)という社員が責任者に指名されるのだが、彼は全くの平凡な人物として描かれる。
特別な意識もないままにエイリアンを差別し侮蔑しているような人物である。
要するに、私たち誰もがヴィカスであるわけだ。
このように、痛烈な皮肉に溢れているのだが、だからといって、映画自体は深刻なしかめっ面をした作品ではない。
つい笑ってしまうような場面も用意されているのだ。
ただ、つい笑ってしまう自分を苦々しく思ってしまう自分に気づかされることも事実だ。
やがて、このヴィスカスに大変な出来事が起こる
差別してきた立場と、差別される立場が逆転するという皮肉な展開となり、ついにはモビルスーツまで出てきてのアクション映画となる。
ということで、映画自体は、あれよ、あれよ、という感じで”面白く”すすむ。
表面上は、悪ふざけをした映画を作りました、作る側も観る側も楽しみましょう、という風である。
しかし、もちろんそれだけではないものが残る問題作です。