あきりんの映画生活

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「天国と地獄」 (1963年)

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1963年 日本 144分
監督:黒沢明
出演:三船敏郎、 仲代達也、 山崎努
    香川京子、 志村喬、 三橋達也

身代金誘拐事件。 ★★★★

黒澤映画の現代物では一番のお気に入りの作品。
とにかく面白い。2時間あまりの長尺だが、展開も変化に富んでいて全く長さを感じさせない。

(以下、ストーリー展開に触れています)

事件の発端部は人間ドラマである。
身代金目当てに子供が誘拐されるのだが、その子供は大邸宅に住む権藤(三船敏郎)の息子ではなく、お抱え運転手の息子だったのである。
しかし、犯人は権藤が金を払わなければ、運転手の子供を殺すと脅迫してくる。

要求された金を払えば、権藤は大借金を抱えることになり、さらに会社からも追放されることになるという状況である。
他人の子供のために自分の人生を破綻させるのかと、権藤は苦悩する。
善人であるがゆえに苦悩する権藤の気持ちはよく判る。三船敏郎が要領の悪い善人を好演している。

物語は犯人への身代金の受け渡しへと展開していく。
だいたいが誘拐事件というのは、身代金の受け取り時と、人質の解放時が一番大変である。犯人は被害者側に接触せざるを得ないので、警察にとっては逮捕につながる好機となる。
犯人はそれをどのような方法で行うのか、ここがこの映画の前半のクライマックスであった。
その方法の見事さには、あっと、唸ったものである。
一節によると、この映画のあと、JR(当時はまだ国鉄だった?)は模倣犯が出ることをおそれて、車両の改造を行ったということである。

さて後半になり、警察と、身代金を手に入れた犯人との攻防となる。
身代金を入れた鞄への仕掛けが、犯人を追いつめていく大きな役割を果たす。
その仕掛けが功を奏する場面は、映像的にも、ああ、というものだった。この映画は白黒なのだが、その場面だけがパート・カラーなのである。これにも唸った。
(今となってはあまりに有名なこの場面は、「シンドラーのリスト」でスピルバーグ監督が真似ている。)

警察陣の地道な捜査過程は現実感があり、その中心となる仲代達也も必死で事に当たっている感じがよく出ていた。
一方の犯人(山崎努)の動きも明らかになってくる。
犯人の背景などはいっさい説明されずに、その行動だけがていねいに描写されていく。
安易な犯人像の図式を解説しなかったところが、この手のサスペンス・ドラマにありがちな薄っぺらさを避けていて、効果的であった。
この映画が事実上のデビュー作である山崎努は、知的でありながら激情型の人物像をよく演じていた。

最後に死刑の決まった犯人が、自ら望んで権堂と面会をする場面がある。
ドフトエフスキーを思い浮かべてしまうような部分で、ここは私には余分に思えたのだが、どんなものだろう?

このように、1本の映画の中にさまざまな要素が詰め込まれていて、しかもそれが上手く絡み合っている。ストーリーを知っていても面白く観てしまう。
日本サスペンス映画の原点でしょう。