あきりんの映画生活

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「ゆれる」 (2006年)

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2006年 日本 119分
監督:西川美和
出演:オダギリ・ジョー、 香川照之

裁判にからむ兄弟の心理ドラマ。 ★★★★

「ディア・ドクター」でもそうだったが、西川監督は、人の心の機微を鋭くとらえる。
田舎に残り家業を継いだ真面目な兄と、田舎を捨てて都会に出てそれなりの成功を収めている弟の、簡単には説明できない兄弟ゆえの心の揺れが描かれている。

久しぶりに故郷へ帰ってきた弟(オダギリ・ジョー)を、兄(香川照之)は温かく迎える。
そして兄弟は幼なじみの智恵子も誘って近くの渓谷に遊びに行く。
そこにかかっていた細い吊り橋から智恵子は渓流へと落下して死亡してしまう。
弟が見たのは橋の上に取り残されて呆然としている兄の姿だったのだが・・・。

はたして千恵子の転落は事故だったのか、それともなんらかの作為の結果だったのか、画面の伝えるものは曖昧である。
事件は裁判の場面で検証されることになり、兄の証言、弟の証言がおこなわれるのだが、人の記憶は確かなのか、見てしまったものの解釈は正しいのか、人の気持ちも曖昧である。

なにが真実で、なにが嘘なのか。
人の心の中にあっては、現実の真実が嘘になり、嘘が真実になってしまうこともあるのかもしれない。
兄が弟に対して抱いていた感情はどうだったのか。弟は本当に兄を信じていたのかどうか。

弟は、あれは事故であって兄は無実だということを証明しようとする。
しかし、留置所へ面会にきた弟に向かって兄が言う、「お前は殺人者の兄を持ちたくないだけだろ」と。
智恵子が落ちていった吊り橋はゆれていたけれども、人の心もまた”ゆれる”のだ。

香川照之が好い。
正直でどこまでも人が好くて、気が小さい、そんな人物像を演じていたかとおもうと、腹の底では何を考えているのか判らないような、そんな不気味さも顔を出させる。
彼の演技によってこの映画はぐんと深みを増している。

裁判の行方を決定づけた弟の証言は真実だったのか、弟が思いだした吊り橋の上の光景は真実だったのか、それは明らかにされないままに映画は終わっていく。
それに、最後に道の向こうで兄が見せた笑顔の意味は何だったのだろう?

いろいろな解釈が可能である。
映画を見終わった人の気持ちも”ゆれる”、ゆれている、ゆれたままだ。

好い映画を観たなあ、映画を観る楽しみはこれだよ、と、思わせてくれる作品。