2011年 日本 144分
監督:園子温
出演:水野美紀、 神楽坂恵、 富樫真
猟奇殺人事件の裏側。 ★★★★
「冷たい熱帯魚」で度肝を抜かれた園子温監督。怖いもの見たさで、いざ、鑑賞!
今回も人間の心の奥に蠢くものをむき出しにして、これでもかと投げつけてくる。
すごい監督だなあ。
物語は、あの東電OL殺人事件をモチーフにしているとのこと。
あの事件で世間が驚愕したのは、昼の顔は真面目なOLだった被害者が、実はコールガールのような夜の顔を持っていたと言うことだった。
この作品でも、大学の助教授や作家の貞淑な妻といった昼の顔を持つヒロインたちが、暗い闇の世界に次第にとらわれていく。
渋谷の円山町というのはラブ・ホテルが林立する一帯らしい。
そこの廃屋で女性の顔と性器が切りとられた猟奇殺人事件が起きて刑事の和子(水野美紀)が担当することになる。
和子は幸せな家庭を持ちながらも、抑えきれない情動で不倫にはしっていた。
映像は、和子の捜査と平行して、実は闇の世界の住人だった大学助教授の美津子(富樫真)、そしてその闇の世界へ踏み込んでいく有名作家を夫に持つ従順な妻のいずみ(神楽坂恵)を描きだす。
和子の情念も湿っていたが、美津子、いずみの情念もどろどろと、あらゆる既成価値を溶かしていく。
「言葉なんか覚えるんじゃなかった」という田村隆一の詩の一節が繰り返しあらわれる。
言葉は肉体化されて初めて意味を持つといったようなことを美津子が叫ぶ。そのために行きずりの性行為をくり返している。
それは自己解放の手段であったのだろうか。(園監督は、この映画を女性賛歌だとも言っているらしい)
彼女はいずみに向かって「私の所まできっちり墜ちてこい」とも叫ぶ。
私が唖然として惹きつけられてしまうのは、通常の人がこれっぽっちも思わないそんなことを厳然としてしまおうとする、その意識である。
私の抱えた常識と、彼女たちが渇望したものとのあまりのギャップである。
そして、そうまでしてしまう登場人物たちの理解不可能な情念の強さである。
堕ちたからといって、そこで何が見つかると思っていたのだろうか。いや、美津子は何を見つけたつもりでいたのだろうか。
すさまじい。
最後に和子は家のゴミ袋を捨てようとゴミ回収車を追いかけているうちに、事件のあった円山町へ紛れ込んでいく。
日常生活の場から、円山町の場へ。いとも容易に二つの世界がつながっている。
見終わって数日しても、澱のようなものが気持ちの中にある。
この作品も感想をひと言で言うのなら、あの「冷たい熱帯魚」と同じ。すなわち、”激しく印象的、しかしもう一度観るかと言われたら、激しく拒否!”だな。
さて、この次に控えている作品、「ヒミズ」。観に行く?