あきりんの映画生活

映画鑑賞だけのブログです。★★★★が満点評価ですが、ときに思い入れ加算があります。約2000本の映画について載せていますので、お目当ての作品を検索で探してください。監督名、主演俳優名でも検索できます。

「HERO 英雄」 (2002年)

イメージ 1

2002年 香港 99分 
監督:チャン・イーモウ
出演:ジェット・リー、 トニー・レオン、 マギー・チャン、 ドニー・イェン、 チャン・ツィイー

ワイアアクションの様式美。 ★★★★★

クリストファー・ドイルのカメラに、ワダ・エミの衣装。
中国歴史物を圧倒的な様式美、色彩美で見せてくれる作品。酔いしれる。

のちの秦の始皇帝となる秦王に、無名(ジェット・リー)と名乗る男が拝謁する。彼は、秦王を狙う最強の3人の刺客をすべて殺したという。
秦王は無名に十歩の距離まで近づくことを許し、3人の刺客を倒したときの対決の様を語るようにうながす。無名の話とは…。

物語の展開の仕方は、たしかに黒沢明の「羅生門」、というか、その原作となった芥川龍之介の「藪の中」を彷彿とさせる。
でも、まあ、そんなことはどうでもいいわ、と思わせるほどの様式美、色彩美に酔いしれる。
それだけで映像芸術である映画である意味は、充分にあるのではないかと思ってしまう。

雨がじっとりとあたりを湿らせる中での無名と長空(ドニー・イェン)の決闘。
この場面でとにかく引き込まれた。剣がしなり、槍がふるえる。こんな映像は初めて観た。すごい。
ワイア・アクションで究極のあり得ない人の動きを表現し、スローモーションでその動きを画面に焼き付ける。
静止した雨の雫を貫いて剣が突き出される、槍がはらわれる。すごい。

たとえば刺客の残剣(トニー・レオン)と飛雪(マギー・チャン)が秦王の宮殿に討ち入った際の布の幻想的なはためき。
たとえば黄色い落ち葉の中で闘う飛雪と如月(チャン・ツィイー)のひるがえる深紅の衣装。
たとえば飛来してくる何千本の矢を剣で払いのけていく無名と飛雪の踊るような華麗な動き。

残雪を慕い、彼に仕える侍女役でチャン・ツィイー
あの「初恋の来た道」の3年後ぐらいである。
あどけない可愛さに、女としての健気さ、悲壮さが宿り始めている。
しかし女性としての美しさではやはりマギー・チャンがこの時点ではまだひとつ上だったか。

そのマギー・チャントニー・レオンが荒涼とした岩山のいただきで寄り添って息絶えようとする光景は、詩情に溢れるものだった。
映画の筋からは飛躍して、まったくありえない光景となっているのだが、そんな理屈を超えたところの美しさを見せてくれていた。
風はどこまでも吹き抜けていくのだ。

それに、中国映画らしい人海戦術的な絵柄も印象的。
大軍勢がいっせいに槍をうちつけ、”風! 風! 風!”と叫ぶのだ。
最後の場面、何万本という矢が空をおおいつくして城門の前に立った無名に向かって飛んでくる。すごい。

戦乱に対する残雪の考え方、最後はそれに共感した無名の思い。それに応えようとした秦王。
ストーリーは単純明快でそれほどのひねりはない。
しかし、そんなことは忘れさせてくれる99分だった。まるで2時間も堪能したような濃密な時間だった。