2000年 香港 98分
監督:ウォン・カーウァイ
出演:トニー・レオン、 マギー・チャン
男と女、求め合っているのに。 ★★★★
アパートで隣人同士となった新聞編集者のチャウ(トニー・レオン)と、商社の秘書のチャン(マギ-・チャン)。
実はチャウの奥さんとチャンの夫は不倫をしていた。
そのことを知ってしまった二人は口にはしないままに相手を意識しはじめてしまう。
次第に、それぞれのパートナーが居ない時間を共有するようになっていく。
画面は陰影を強調して、緑や赤、青といった原色を多用した構成。
そして狭い部屋や細い階段、壁に挟まれた路地など、周囲から閉ざされた位置に、主人公たちはいつもいる。
ウォン・カーウァイ監督の独得の美意識を感じさせる。
カメラはもちろんクリストファー・ドイルである。
マギー・チャンはあらゆる場面でチャイナ・ドレスを着ていた。
それも立襟がとても強調されていて、首が長く見える。
折れてしまいそうな細い身体に不思議な妖しさがあった。
階段ですれ違う二人。
軒下で並んで雨宿りをする二人。
タクシーの中で触れようとしたチャウの手からそっと手を引くチャン。
チャウの仕事部屋で親しげに話し込む二人。
チャウとチャンの関係はどこまでもストイックで、お互いに一線を越えることをためらっている。
しかし、気持ちはお互いを求め合っている。
心の欲望がありながら身体は触れ合うことを耐えている。
それゆえに、愛に飢えた心が狂おしいほどに相手を求めている感じが、かえって伝わってくる。
カーウァイ監督の音楽の好みは、好い。
この映画でなんども流れる曲は、実は鈴木清順監督の「夢二」のテーマ曲。
カーウァイ監督が気に入ってこの映画に流用したとのこと。
その他にも、流れるスペイン調の「キサス・キサス・キサス」など、センスのいいものばかりだった。
(「キサス・キサス・キサス」は、男の問いかけに女が、多分ね、とあいまいな返事を繰り返す内容だったと思う)
物語はシンガポールに飛び、また香港に戻ってくる。
お互いに会いたいと思いながら、どこまでもすれ違っている二人。
シンガポールのチャウの部屋にチャンが勝手に忍び込む場面がある。
ここはカーウァイ監督の「恋する惑星」の、トニー・レオンに片思いをしたフェイ・ウォンのエピソードを思い出させた。
チャンがピンクの女物スリッパを持ち去ったことにチャウは気づいたのだろうか?
(以下、いささかネタバレ気味)
結局二人は(観ている者の期待を裏切って 汗)再会しないままなのだ。
惹かれあっていることをお互いに判っているはずなのに、どちらも行動に移さない。
もどかしい。
時は過ぎて、取り戻すことのできない記憶ばかりがチャウによみがえるよう。
チャウがカンボジアの密林で、誰にも言えない秘密を大木の洞に封じ込めている場面があった。
チャウが封じ込めた秘密とはいったい何だったのだろう?
香港のかって住んでいた部屋を訪ねるチャウ。
そして隣のチャン家には可愛いお子さんがいましたよと聞かされる。その子どもは?
説明は何もないままに、余韻のある映像ばかりで映画は終わっていく。
この映画の4年後に「2046」が撮られる。
チャウが仕事のために借りて、チャンと一緒にいたホテルの部屋が2046号室だった。
映画全体から漂ってくる独得の美しさに魅了されてしまう。
トニー・レオンがカンヌ映画祭で最優秀男優賞を取っています。