あきりんの映画生活

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「うつくしい人生」 (1999年)

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1999年 フランス 115分
監督:フランソワ・デュベイロン
出演:エリック・カラヴァカ、 イザベル・ルノー

静かな心の再生ドラマ。 ★★☆

南フランスの田舎町で牧畜をおこなっている一家の物語。
と書くと、牧歌的な、スローライフを描いた作品かと思われそうだが、実際の生活はそんな生やさしいものではない。
祖父、父と続けてきた家業を、息子のニコラは嫌って、パリへ行くことを夢想している。
生きがいを見いだせない青年らしい苛立ちが彼を捕らえている。

(以下、大まかなストーリーに触れています)

実際に生活の状況は厳しい。
不況らしく、出荷したのに牛乳の代金は入ってこない。壊れた農機具の修理をするお金にも困る有り様。辛い。
おまけに飼育していた牛たちが狂牛病にかかり、しぼった牛乳は溝へ廃棄し、牛までも処分せざるを得なくなる。なんということだ。
このあたり、人生はちっともうつくしくない。

しかし、人々を囲む南フランスの風景は、中世絵画のように美しい。
暮れてゆく空と大地を背景に映される木々のシルエット、なだらかな丘陵の向こうから上りはじめる太陽など、もう絵葉書のよう。
カメラは永田鉄男という日本人とのこと(全く知らない方でしたが)。

すべてを失った父親は、ある日、自殺をしてしまう。
そのショックで祖父は高度の認知症となってしまう。
おまけに母は不倫をしている。
もう、家族の心はばらばら。
ニコラでなくてもつい呟きたくなる、”人生って、なに?”。これが原題。

冒頭のあたりで、家を出て都会に行きたいというニコルに、まだしっかりしていた祖父が語る。
「わしも山に住んでいた若い頃に同じような事を考えた。そして家を出てここへ来た。それ以来、何も変わっていない。自分が歳とっただけだ。」
う~ん、人生ってそんなものか・・・。

後半、父の自殺によってニコラはこれまでの憧れとは正反対の人生を選択する。

今よりもさらに山奥の、祖父の住んでいた廃屋で祖父母、妹と一緒に新しい生活をはじめるのだ。
壊れかけた古い家の修繕をして、友人が譲ってくれた2頭の牛を飼い、耕した山間の畑に穀物を育てる。
自給自足のようなささやかな生活が始まる。
そこでニコルは、都会から山奥へ移り住んでいたシングル・マザーのマリアとも再会する。

こうして、見せかけだけではない、自分にとっての本当の”うつくしい人生”を探しあてたニコルの新しい物語がはじまる。

前半の物語は辛いけれども、美しい景色が見事なので、映画を観ている気持ちはそれほど辛くなりません(これで画面が暗かったり汚かったりしたら、観るのを止めたくなるでしょう)。
結末はほのぼとしてきます。

サン・セバスチャン映画祭でグランプリを取っています。
ニコラ役の人は、この作品でセザール賞の新人男優賞を取っているそうです。