2000年 スゥーエデン 94分
監督:ロイ・アンダーソン
不条理映画。 ★★★★☆
なんとも奇妙な作品を見てしまったな、というのが、まずの感想。
はっきりとしたストーリーらしいものもなく、登場人物たちは意味不明の行動をするし、彼らを取り囲む光景もなにか奇妙。
しかし、退屈かというと、そんなことはない。
出口の見えない迷路を彷徨っているような感覚がある。
やれやれと角を曲がると、またどこへ続くのかわからない通路が続いているよう。
登場するのは、長年勤めていた会社をリストラされて経営者の脚にしがみついてどこまでもひきずられる老人や、自分の店に放火して顔中がすすだらけの男、言葉の通じないドイツ人の幽霊(!)、 胴体切断のマジックに失敗するマジシャン、などなど。
脈絡もなく、彼らは登場してくる。
とにかく場面ごとの映像がすばらしい。
街路をぞろぞろと歩きながら、手にした縄のような鞭で前の人を一斉に叩く行列。
前の人を鞭打った人も、後ろの人に鞭打たれる。
で、全員が倒れそうによろけながら、またぞろぞろと歩き始める。
なんだ、こりゃ? いろいろな街の場面の背景にこの人たちが映っていたりする。
地下鉄の中で灰だらけになった太ったおじさん(放火してきたおじさん)が悲しそうな顔をして乗っている。
やがて、車内にてんでに乗っていた人たちが一斉に大きく口を開けてオペラ曲のようなものを歌い始める。なんだ、こりゃ?
はるか彼方まで大勢の人が断崖の周りに集まっている。
片方の列には教会の司教のような衣装の人たちも並んでいる。
やがて眼まくしをされた白い服の少女が連れてこられて、崖の上に作られた台の上から無言で突き落とされる。
挙げればきりがないが、そのどれもが不思議な絵画を見ているように、美しい。
さすがに広告業界で数々の受賞をしている監督だけのことはある。
CGは一切使わずに、こだわり抜いたセットをくみ上げ、一つ一つの場面を4年かけて撮ったとのこと。
登場人物に本職の俳優はおらず、監督が街中でスカウトした素人ばかりとのこと。
彼らのどこかぎごちない演技が、不可解な物語にはかえって似合っていた。
作品世界には終末感が漂っているよう。
街中はいつ動き始めるかわからないような車の渋滞が延々と続いている。
一儲けしようとしたキリスト像は荒野に投げ捨てられ、そこへ幽霊たちがゆっくりと近づいてくる。
空港のロビーでは、どこかへ脱出しようとする人々が運びきれないような荷物を持ってカウンターへにじり寄ってくる(この場面が特に秀逸)。
観る人を選ぶ映画でしょう。
10分で観るのを止める人や寝る人もたくさんいると思います。
でも、一部の人にはかなりのお気に入りになる、そんな映画です。