あきりんの映画生活

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「海にかかる霧」 (2014年)

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2014年 韓国 111分
監督:シム・ソンボ
出演:キム・ユンソク

残虐な心。 ★★☆

韓国映画はすさまじい。
邦画ではなんとなく迂回してしまう部分を何の躊躇もなく一直線に突っ切ってくる。
描かれている内容はともかく、その描こうとする迫力には圧倒される。
この映画も、グロテスクな部分を臆面もなく差し出してくる。

不況にあえぐ漁船のカン船長(キム・ユンソク)は、オーナーには廃船にすると警告され、家に帰れば妻は浮気をしている。
船を守るために、ついに彼は中国人の密航者を乗船させるという違法仕事を請け負ってしまう。

もちろん、カン船長は海の上にしか居場所がないような普通の漁師で、悪人などではなかった。
甲板長をはじめとする5人の乗組員も、貧困の生活にあえいでいるものの、決して悪人ではなかった。
ひとりひとりの彼等の人間性もよく描き分けられていた。

20人ぐらいの密航者を乗せ、ただ運ぶだけの予定だった。
甲板の上にたむろする密航者達にカップ麺を差し入れたりして、乗組員も優しく接している。
しかし海上警察の捜査を受ける羽目になり、密航者達を魚倉に隠したりしなければならなくなる。
そこは暗く、臭いも激しい最悪の環境の場所だった。
でも一時のことだから我慢して、すぐに出してあげますから・・・。

(以下、ネタバレあり)

この物語は実際にあった事件を元にしているとのこと。
官憲の調べから逃れるために一時的に密航者達を隠した魚倉で、彼等は窒息死してしまうのだ。
若者が一人だけ機関室に匿っていた若い女性を除いて。

ここから船の上は異次元の精神が支配する場所となる。
この死体が見つかったら自分たちの一生は台無しになる。この死体をなかったものにしなければならない。
そのためには・・・。

死体を切り刻んで海に捨てて魚に食べさせてしまおう。死体が一体でも発見されれば、自分たちは終わりだ。
船の上では絶対的な権力者であるカン船長の独断命令に、乗組員達の精神も支配されていく。
海の上には深い霧が立ちこめはじめ、まるで、船も精神も異様な場所に閉じ込められてしまったようなのだ。

さらに、一人の若い女性が隠れて生きていたことによって、乗組員達の思惑や欲望がむきだしになってぶつかりはじめる。

場面もグロテスクなのだが、それ以上にグロテスクなのは人の心。
みんな普通の人だったはずなのに、次第にグロテスクな怪物のような心になっていってしまう。
韓国映画はそんなものを真正面から突きつけてくる。

そして、沈没していく船から逃れた若い男女の二人は・・・。
映画は事件の6年後がエピローグのように映し出す。
あの凄惨の事件は何だったのだ、と問いかけるような、余韻を残すエンディングだった。

こってりと濃い味付けの油料理を食べたよう。
美味しかったのだけれども、しばらくはこの味は食べなくてもいいかな、そんな気にさせられます。