2012年 イラク 93分
監督:バフマン・ゴバディ
出演:ベヘルーズ・ヴォスギー、 モニカ・ベルッチ
虐げられた愛の物語。 ★★★
実在のクルド系イラン人の詩人サデッグ・キャマンガールの体験に基づいた映画とのこと。
イスラム革命時に、反体制とされた彼は27年間も投獄されたとのこと。
詩集「サイの最後の詩」を発表していた詩人サヘル(ベヘルーズ・ヴォスギー)は、政治的理由で逮捕される。
彼は30年間拘束の判決を受け、最愛の妻ミナ(モニカ・ベルッチ)も10年間拘束されてしまう。
やっと釈放されたサヘルは、ミナの行方を必死に捜す。
画面には中東独特の異国感がありながらも、暗い。
主人公たちの沈んだ心を反映しているようだ。
そして、序盤は現在と過去が交差して描かれるので、状況が把握できるまではやや戸惑う。
あれ、この人物は誰だ? どうしてこんなことをしている?
やがて物語の骨格がわかってくる。
激しい運命に不当に翻弄された主人公のサヘルは終始、表情を変えることもなく寡黙。
それがかえって物語に陰影を与えている。
実は、美しいミナに横恋慕する運転手アクバルがいて、彼の密告でサヘルは投獄されてしまったのだ。
あまけにアクバルは革命によって、政府の要人になってしまうのだ。
さらにミナを我が物にしようと奸計をめぐらす。必死に抵抗するミナ。
モニカ・ベルッチが出ているとは知らずに観にいったので、彼女が現れた時は嬉しく驚いた。
彼女は若く美しい時代から30年後の老け役まで見事に演じていた。
(おっ!と言う体当たりの場面もあります)
ミナは釈放された時に、夫のサヘルはもう死んだと聞かされている。
ある事情によって獄中で双子を産んだミナは、一人で子供を育てていく。
30年間の別離の後に、サヘルとミナは再会することが出来るのか。
ときおり、馬が大きな顔を車の中に突きだしてきたり、無数の小亀が空からふってきたりする場面が挟み込まれる。
サヘルの詩の一節を可視化したような場面だ。
タイトルにもなっているサイがあらわれる場面もある。
寡黙に彷徨っているサヘルの心情をあらわしているのだろうか。
サヘルはミナと再会することだけを願って彷徨っている。
一方でサヘルが死んだと聞かされているミナはタトウ師となっていて、彼の詩の一節を他人の肌に彫りつけることで生きている。
そんな二人は再会できるのだろうか。
映画は、これは現実のことなのだろうか、それとも幻想なのだろうか、といった雰囲気で終わっていきます。
暗い余韻を残す映画です。