あきりんの映画生活

映画鑑賞だけのブログです(苦笑)。★★★★が満点評価ですが、ときに思い入れ加算があります。

「オン・ザ・ミルキ-・ロード」 (2016年)

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2016年 セルビア 125分
監督:エミール・クストリッツァ
出演:エミール・クストリッツァ、 モニカ・ベルッチ

政治色を背景にしたシュールな寓話映画。 ★★★★☆

凄まじい映画を観てしまった。なんと勢いに溢れた映画であることか。
監督は、あの「アンダーグラウンド」を撮ったエミール・クリストッツァ。
あの映画も奇想天外な物語展開だったが、こちらはさらに凄かった。

舞台はいつまでも戦争が続いているある国。
主人公はその戦線の最前線に毎朝ミルクを届ける配達人のコスタ(エミール・クストリッツァ、要するに監督本人!)。
そしてヒロインは、なんとモニカ・ベルッチ
彼女は村一番の英雄の花嫁になるために村に来たのだったが、コスタと会った瞬間に二人は恋に落ちてしまう。

物語は寓話のように語られる。
コスタは相棒のようにいつもハヤブサを肩に留まらせている。
ガチョウたちは豚の血を溜めた桶で水浴びをする(この不吉なものを思わせる場面は戦争に結びついているのだろう)。
コスタがこぼしたミルクを飲んで肥大化した蛇も出てくる。

コスタが雇われている村のミルク屋の勝ち気な娘がエレナ(スタボダ・ミチャロヴィッチ)。
ヒロインのモニカ・ベルチももちろん好かったのだが、このエレナが素晴らしくよかった。
エレナはコスタに片思いをしていて、英雄である兄がベルッチ扮する花嫁との結婚式の日にコスタと結婚しようと予定していたのだ。

さあ、いろいろな思惑が入り乱れててんやわんや。
(この映画の前半は、実は恋愛コメディでもあったのだ 笑)

面白かったのは、ミレナの家にある巨大な時計。
長い鎖でねじを巻かなければならないのだが、いつも時間が狂っているこの時計は、隙あらば人間に咬みついてくるのだ。
いろいろとイメージを膨らませてくれるなあ。

音楽もバルカン特有の軽快なりズムにどこか哀愁を漂わせるメロディが好い。
停戦の祝宴で演奏され歌われる「ビッグブラザー」という曲の迫力は素晴らしかった。
繰り返しになるが、踊り子でもあったエレナが歌い踊る様子は本当によかった。

停戦協定が結ばれて村人たちが喜んだのもつかの間、狂信的な将軍の命令で村人は皆殺しにされてしまう。
それというのも、花嫁に横恋慕していた将軍は彼女を取り戻すために大虐殺を命じたのだ。
コスタと二人で村から逃げ出した花嫁。
どこまでも二人を追ってくる3人の兵士。

ここからは一転して逃亡劇となる。
やりたい放題の物語に展開にぐいぐいと押されて、この物語はどこまで行ってしまうのだろうと思いながら観ていた。

逃亡の果て、二人はどうなったか。
無数の地雷が埋められている平原。そこに入り込んでしまうたくさんのヒツジたち。

(ネタバレ)
映画の最後、15年後のコスタは、あの地雷原を石で埋めつくしていた。
ヒツジたちは戦争の犠牲になった無辜の人々だったのだろう。
その命を奪った地雷をコスタはこつこつと埋めたのだろう。花嫁への追慕とともに。

この監督のすごいところは、戦争の悲惨さまでもを戯画化して描いてしまうところ。
そして確実に重い何かを伝えてくるところ。
問題作です。お勧め作です。