あきりんの映画生活

映画鑑賞だけのブログです。★★★★が満点評価ですが、ときに思い入れ加算があります。約2000本の映画について載せていますので、お目当ての作品を検索で探してください。監督名、主演俳優名でも検索できます。

「恋人たち」 (2015年)

イメージ 1

2015年 日本 140分
監督:橋口亮輔
出演:篠原敦、 成嶋瞳子、 池田良

辛く、痛い、映画。 ★★★★

並の日本映画にはない重さと苦しさを伝えてくる作品。
韓国映画がぶつけてくるむき出しの感情を、ちょっと思わせる。

3人の男女が主人公。
彼らはそれぞれに辛い環境におかれている。その環境の中でとても必死。
主人公たちはあまりに必死で、痛々しい感じもあり、観ているこちらもいやな気分になるほど。
キャッチ・コピーは「それでも人は生きていく」。なるほど。

アツシ(篠原篤)の妻は数年前に通り魔に殺された。
橋梁の破損の有無をチェックする仕事をしながら、犯人を憎み続けている。
底辺の暮らしをしながら、彼は必死に役所に掛け合いに行ったり、裁判を起こそうとしたりするのだが、周りの人からは疎んじられてしまう。

それもよく判る。
アツシはとても格好悪いのだ。必死であればあるほど、格好悪くなっていくのだ。
必死ということはそういうことなのだと思わされたりもする。

主婦の瞳子(成嶋瞳子)は、自分勝手な夫と、意地悪な姑との3人暮らし。
何が楽しくて暮らしているのかと思うほどなのだが、彼女は妙に楽天的。のほほんとしている。
それが観ているものには救いに思えてくる。
彼女はひとりの中年男と親しくなるのだが、この男が覚醒剤中毒者だったりする。

3人目は、エリート弁護士で自尊心が強い四ノ宮(池田良)。
依頼人を見下し、傷つけるだけの言葉を発していくのだが、彼自身は実は同性愛者だった。
一緒に暮らしていた恋人には去られ、昔から秘かに想い続けていた男友達には誤解をされてしまう。

3人ともとても生き方が不器用なのである。
その不器用さがときにコメディのようにも見える。

主役の3人にはほとんど無名と言ってもよい俳優を起用している(役名も俳優名を使っている)。
そのために、まったく市井の人というイメージで観ることができて、登場人物たちのリアル感はとても好く出ていた。

篠原敦の訥々とした演技の迫力は、どこまでが地でどこからが演技なのか判らないほどだった。
成嶋瞳子の自然体の演技もよかった。
ここまでさらけだすのかと思えるほどの自然体だった。

脇役もいい。
アツシを励ましてくれる片腕の先輩や、インチキ美白水を瞳子に売りつけようとするスナックのママ、などなど。
いい加減な助言をアツシにするリリー・フランキーの軽薄ぶりも、この野郎!と思わせる。

3人を取り巻く状況はそれぞれに暗く、重い。どこにも救いがないように思える。
最後に3人はそれぞれにわずかな気持ちのよりどころを見つける。
しかし、それは諦めと裏表になったようなよりどころであるところが、どこまでも切ない。

どすんと気持ちに響いて、たしかに惹きつけるものを持っている映画。
邦画もなかなかやるなあ、とあらためて思わされた。