2014年 メキシコ 100分
監督:イサーク・エスバン
不条理映画。 ★★★
なんや、これ? とにかく妙な映画。
好きな人にはたまらない魅力いっぱい。そうでない人には欠伸だらけの映画(笑)。
オープニングは動いているエスカレータのアップ。
そこに皺だらけの不気味な老婆が転がっている。しかも、ウェディングドレス姿。
ここで奇妙な映画を見始めてしまったよと、期待するか、がっかりするか・・・。
いずれも抜けだすことのできないループに囚われた人たちの、二つの物語があらわれる。
その一つ目は”階段の警官たち編”。
犯人の兄弟二人と、追いかける警官の3人は、非常階段で9階から1階まで駈け降りる。
しかし、1階からさらに続く階段をたどると、えっ? 9階に戻ってしまっている?
ループになって無限に続く非常階段に閉じ込められた3人。
踊り場には水とサンドイッチが置いてある自動販売機があって、しかも中身はなぜか自動的に補充される。
食料と水は大丈夫なのだが、どうしても非常階段からは出られない・・・。さあ、どうする?
二つ目は”果てしない道路の家族編”。
母親と息子、娘、それに母親の彼氏の4人が長い道路を車で進んでいる。
すると喘息発作を起こす娘。吸入薬を母親の彼氏が割ってしまい、急いで家に薬を取りに帰ろうとする。
しかし、いくら走っても、あれ? これはさっき通った場所だぞ。また戻ってきてしまっている?
ループした道の途中には無人のガソリン・スタンドがあり、こちらも食料や水に困ることはない。
自棄になった彼氏が車を降りて道を外れて向こうの山をめざして歩きはじめる。
しばらくすると、まっすぐ歩いていったはずの彼氏は、道の反対側からこちらへやって来る。
どの方向へ進んでも、駄目なんだ・・・。
ここまでは淡々とすすむので、起こっている出来事は異常なのだけれども、基本的にちょっと怠い。
しかし、ここからが、えっ? そんなあ・・・。
えっ、それ、どういうこと?
映画のポスターを見ると、まるで絶叫してしまうような恐ろしげなホラー映画という感じだが、そんなことはまったくない。
どちらかといえば、静かな、とても静かな知的映画(苦笑)。
このポスターに騙された人はお気の毒でした。
(以下、かなりネタバレ)
次の場面。
なんと階段に閉じ込められた犯人と警官には、35年もの月日が流れていた!
これにはびっくり。階段にはサンドイッチの空箱が山と積まれ、空き瓶が散乱している。
犯人の一人は死んでしまい、残された一人はたくましく生き続けている。
よぼよぼになった警官はまるで生きるミイラ状態。
そして道路に閉じ込められた家族にも35年の月日がながれていた。
母は死んでしまい、たくましく成長した息子と、変な爺さんになった彼氏が生き延びている。
ところが、あれ? この成長した息子の顔は、あの犯人を追いかけて階段ループに入り込んだ警官と同じではないか!
このあたりから物語は俄然面白くなってくる。
ミイラのように老いた警官が、わたしはダニエルだ、と呟く。
カメラが切り替わると、道路ループの方の変な爺さんも、わたしはダニエルだ、と叫ぶ。
そして家族の息子の名前もやはりダニエルなのだ。
(以下、最後に向かう完全ネタバレ)
家族編の息子の前に、ループから抜けだすためのパトカーがあらわれる。
変な爺さんは、パトカーに乗るな、と忠告しながら死んでいくのだが、息子はやはりパトカーに乗り込む。
そして警官となって、新たな階段ループに入り込んでいく。
エンディング。一方、階段にいた若者の前に抜けだすためのエレベーターがあらわれる。
それに乗った若者はホテルマンとなり、式場へ向かう花嫁を案内する。
しかし、ホテルの廊下は、あれ? いつまでも同じところを回っているぞ・・・。
ということで、眩暈がするような不条理物語となっていた。
最初に映ったウェディング姿の老婆は、ホテルマンと一緒にループに閉じ込められてしまった花嫁の年老いた姿だったのですよ。
面白そうと思う人と、なんだ、こりゃ、と思う人と、完全に分かれる映画です。